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取材:2015年3月
はじめに:夜の帳が降りる京都駅から,旅は始まる
2015年3月。春休みを迎えた高校生の胸には,まだ見ぬ土地への憧憬と,限られた小遣いという現実が同居していた。目指すは四国・高松。新幹線や特急を使えば容易に行き着く場所であるが,あえて過酷で,それでいて詩情に満ちた「夜行フェリー」の旅を選ぶ。
18時30分。旅の起点である京都駅のホームには,独特の熱気が満ちていた。東海道本線(JR京都線)の主役,新快速223系が滑り込んでくる。転換クロスシートの窓側に腰を下ろすと,最高時速130km/hの咆哮とともに,列車は夜の関西を西へと疾走し始めた。
喧騒の大阪駅と,消えゆくオレンジ色の記憶
わずか30分弱で,列車は巨大な結節点,大阪駅へと滑り込む。
ホームから階段を上がると,2011年に完成した「大阪ステーションシティ」の圧倒的な橋上駅舎が広がっていた。巨大なドーム屋根が覆う空間は,まるでヨーロッパの主要駅のような開放感を醸し出している。見下ろすホームには無数の人々が行き交い,旅情を刺激してやまない。
大阪環状線のホームへ
ふと足を伸ばした大阪環状線のホームで,私は「彼」と出会った。
視線の先にいたのは,オレンジバーミリオンの車体を纏った201系である。国鉄時代から関西の通勤輸送を支えてきた名車だが,新型車両の導入発表により,その活躍の終わりが刻一刻と迫っていた。モーター音を響かせて出発していくその後ろ姿に,時代の移り変わりという,少しの切なさを覚えずにはいられなかった。
神戸の味覚を求めて:新長田の「そばめし」と長田の歴史
再び新快速の俊足に身を任せ,列車は神戸を目指す。車窓の灯りが次第に明かりを増し,港町・神戸の玄関口である三ノ宮駅を発車。さらに西へと進み,神戸駅で321系の普通電車へと乗り換える。目指すは,下町の風情を残す新長田駅だ。
新長田の街は,1995年の阪神・淡路大震災から力強く復興を遂げた象徴的な地域である。ここでどうしても食したかったのが,この地が発祥とされるB級グルメ「神戸そばめし」であった。
伝統のそばめし
熱い鉄板の上で,焼きそばとご飯がコテによって小気味よく刻まれていく。ソースの焦げる香ばしい匂いが店内に充満する。一口運べば,甘辛い泥ソースのコクと,麺と米の異なる食感が口の中で絶妙に調和する。高校生の旺盛な食欲を満たすには十分すぎる,濃密な神戸の味であった。
深夜の三宮,そしてジャンボフェリーとの対面
お腹を満たした後,再び普通電車で三ノ宮駅へと引き返す。時計の針は22時を回ったばかりだ。
ここから神戸港の「神戸三宮フェリーターミナル」までは,徒歩での移動となる。夜の神戸の街は昼間の華やかさを潜め,どこか静謐な空気をまとっている。フラワーロードを南へ,港の匂いを頼りに歩くこと約20分。暗闇の向こうに,こうこうと光を放つ巨大な船体が姿を現した。
これこそが,関西と四国を結ぶ動く架け橋,ジャンボフェリーである。
| 項目 | 概要(2015年3月現在) |
| 乗船便 | 神戸発 深夜1:00便 (土休日等ダイヤ) |
| 乗船エリア | 二等客室(じゅうたん雑魚寝エリア) |
| 徒歩移動 | 三ノ宮駅〜ターミナルまで約20分 |
乗船手続きを済ませ,タラップを上がる。船内に一歩足を踏み入れると,どこか懐かしい昭和の香りが残る空間が広がっていた。
雑魚寝の夜:エンジン音と瀬戸内の波に揺られて
割り当てられたのは,仕切りのない広大なじゅうたん敷きの空間,すなわち「二等客室(雑魚寝エリア)」である。
深夜1時。長い汽笛とともに,船はゆっくりと神戸港を離岸した。
船底から響く「ゴゴゴ……」という重低音のエンジン振動が,五感を通じて伝わってくる。毛布にくるまり,横になる。枕元からは,ジャンボフェリーでお馴染みの哀愁漂うテーマソング『二人を結ぶジャンボフェリー』のメロディが微かに聞こえていた。
窓の外に目をやると,世界最長の吊り橋である明石海峡大橋が,真珠を連ねたような美しいイルミネーションで夜空を彩っている。船はその巨大な橋脚の下を,音もなく潜り抜けていった。
毛布の温もりに包まれながら,心地よい波の揺らぎに身を委ねる。目を閉じれば,自分が今,漆黒の瀬戸内海を渡っているという事実だけで,胸の高鳴りが止まらなかった。これぞ,夜行便でしか味わえない贅沢な孤独と抒情であった。
黎明の高松上陸:旅の終わり,そして始まり
浅い眠りを繰り返すうち,船内の照明が静かに灯った。アナウンスと『二人を結ぶジャンボフェリー』が朝の訪れを告げる。
デッキへ出ると,空は未だに真夜中のように静まりかえっていた。5時すぎ,船は高松東港へと静かに着岸した。
連絡バスに揺られ,5時30分。私は高松駅の前に立っていた。
冷たく澄んだ四国の朝の空気が,眠気の残る頬を心地よく刺激する。京都駅から始まった長い夜が終わろうとしていた。しかし,高校生の私にとって,これは四国縦断という新たな冒険のプロローグに過ぎない。
鉄道の鼓動,下町の味覚,そして瀬戸内の風。五感のすべてを揺さぶる夜行フェリーの旅は,効率性ばかりが求められる現代において,忘れてはならない「旅の豊かさ」を教えてくれるのである。
今回の旅を再現・計画するための便利リンク集
今回の乗車ルートや,旅をより快適にするための旅情派おすすめアイテムの紹介です。
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