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取材:2014年7月
まえがき:時が止まった,真夏の木造駅舎を歩く
2014年7月,うだるような暑さのなか,私は富山地方鉄道の起点である電鉄富山駅に立っていた。高校生の私にとって,この夏の旅は単なる移動ではなく,大正から昭和の記憶が残る「生きた建築」を探す冒険であった。
富山地方鉄道(通称・地鉄)は,全国的にも極めて珍しい,往時の姿を色濃く残す木造駅舎の宝庫である。立山連峰の麓へと続く線路の上を,快晴の朝の光が眩しく照らしていた。これから始まるのは,どこか懐かしく,胸が締め付けられるような,真夏の木造駅舎巡りの記録である。
旅の始まり:電鉄富山駅から急行で一気に立山駅へ
午前7時過ぎ,電鉄富山駅のホームには清々しい朝の空気が満ちていた。乗車するのは立山行きの急行列車である。モーター音を響かせながら,列車は富山平野を滑り出した。車窓からは,青々とした水田の向こうに,夏の光を浴びて輝く立山連峰の雄大なシルエットが見える。
列車は徐々に高度を上げ,終点の立山駅へと到着した。ここは立山黒部アルペンルートの玄関口であり,観光客で賑わいを見せるモダンな駅である。
しかし,一歩駅の外へ出ると,そこには豊かな大自然が広がっている。私は駅周辺を少し散歩することにした。
近くの踏切を渡ると,足元から夏の草の匂いが立ち上る。常願寺川の清流のせせらぎが,火照った身体に心地よい。冷涼な川風を肌に感じながら,私は再び地鉄の列車に乗り込み,本題である木造駅舎の待つ静かな無人駅たちへと折り返すことにした。
秘境の気配と,時を刻む駅舎たち(横江・本宮・有峰口)
横江駅:森の入り口に佇む静寂
立山駅から数駅戻り,最初に降り立ったのは横江駅である。
ホームに降り立つと,セミの鳴き声が降るように聞こえてきた。1931年(昭和6年)の富山電気鉄道開通時に建てられたこの駅舎は,切妻屋根の素朴な佇まいを見せる。周囲の深い緑に溶け込むような木造の壁は,長い年月を経て深い味わいを醸し出していた。
本宮駅:深い山あいに眠る木造建築
次に訪れた本宮駅は,かつて多くの登山客やスキー客で賑わった歴史を持つ。
現在(2014年時点)は静かな無人駅であるが,堂々とした木造駅舎が往時の面影を今に伝えている。誰もいない待合室の木製ベンチに座ると,窓から差し込む朝の光の中に,小さな埃がキラキラと舞っていた。まるで,ここだけ時間の流れが遅くなっているかのような錯覚を覚える。
有峰口駅:かつての栄華を伝える登録有形文化財
続いて下車した有峰口駅は,この路線の中でも白眉といえる存在である。
戦後の有峰ダム建設資材の輸送拠点として栄えたこの駅は,重厚な木造駅舎を有している。切妻屋根と大きく張り出した庇が特徴的であり,その歴史的価値から国の登録有形文化財にも指定されるのではないかと噂されるほどの風格がある(※注:後に正式指定)。木製の改札口を触ると,多くの人々が通り抜けていった歴史の重みが,手のひらを通じて伝わってくるようであった。
富山の原風景と,映画のロケ地を巡る(下段・岩峅寺)
下段駅:水田のなかにぽつりと佇む,美しき無人駅
山を降るにつれ,景色は再び富山平野ののどかな田園風景へと変わっていく。下段(しただん)駅で列車を見送る。
この駅は,広大な水田の真ん中にぽつんと佇む小さな木造駅舎である。快晴の青空と,青々と茂る稲穂,そして歴史を経た木造駅舎。日本の原風景を凝縮したかのようなその美しさに,私はしばらく言葉を失い,ただカメラのシャッターを切り続けた。
岩峅寺駅:映画にも登場した大正ロマンの最高峰
立山線の主要駅である岩峅寺(いわくらじ)駅は,地鉄の木造駅舎を語る上で絶対に外せない聖地である。
1921年(大正10年)建築の駅舎は,大正ロマンの薫りが漂う社寺風の堂々たる建築物である。そのクラシカルな美しさから,映画『剱岳 点の記』や『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』のロケ地としても使用された。2面4線の広い構内と,使い込まれた木製の手すり,高い天井。高校生の私にとっても,その空間が持つ圧倒的なノスタルジーは,深く胸に刻まれるものがあった。
旅の終盤:愛らしい木造駅舎と,川辺の静寂(開発・大川寺)
開発駅:小さな郵便局を思わせる,ハイカラな洋風木造駅舎
岩峅寺駅を後にし,電鉄富山方面へと戻る途中で降り立ったのは開発(かいぼつ)駅である。
大正から昭和初期の地方鉄道において,しばしば見られたのが「洋風」のデザインを取り入れた駅舎である。ここ開発駅の駅舎もまた,どこか昔の小さな郵便局や診療所を思わせる,ハイカラな佇まいを残していた。
白い下見板張りの壁と,均整の取れた窓枠。決して大きくはないが,当時の職人たちのこだわりが感じられる意匠である。真夏の強い日差しに照らされた白い壁は,青空とのコントラストでいっそう眩しく見えた。待合室に一歩足を踏み入れると,ひんやりとした古い木材の匂いが私を包み込み,旅の疲れを優しく癒やしてくれた。
大川寺駅:旅の終わりを告げる静かな佇まい
最後に訪れたのは,常願寺川のほとりにある大川寺(だいせんじ)駅である。
かつて近くにあった遊園地「大川寺遊園」の最寄り駅として賑わった駅であるが,現在は緑に囲まれた静かな無人駅として佇んでいる。川のせせらぎを聞きながら,ここまで巡ってきた木造駅舎たちの姿を思い返す。どの駅舎も,富山の厳しい冬を何度も乗り越え,この夏の光のなかに厳然として存在していた。
やがてやってきた電鉄富山行きの列車に乗り込み,私の短い,しかし濃密な夏の冒険は幕を閉じた。
まとめ:富山地方鉄道の木造駅舎が教えてくれるもの
富山地方鉄道の立山線に残る木造駅舎の数々は,単なる古い建物ではない。それは,富山の産業を支え,人々の営みを見守り続けてきた生きた文化遺産である。
2014年現在,これらの駅舎は今なお現役で旅人を迎え入れている。効率性や新しさが求められる現代において,木造駅舎が放つ温もりと情緒は,私たちの心を捉えて離さない。
あなたも次の休日に,富山の美しい自然と,時を止めた木造駅舎を巡るノスタルジックなローカル線の旅に出かけてみてはいかがだろうか。
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