【合格祈願の梅香る坂から,夕暮れのアメ横へ】湯島天神の静寂と上野・御徒町の圧倒的エネルギー

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取材:2014年1月

祈りの結び目、そして日常の熱狂へ。冬の東京の二つの顔を巡る

冬の張り詰めた寒気が,都会の喧騒をどこか遠くへ押しやっている。

2014年1月。受験シーズンが本格化する独特の緊張感のなか,私は東京メトロ千代田線の湯島駅に降り立った。高校生の私は,これから自分の未来を切り拓くための神聖な丘へと向かう。目指すは,学問の神様として名高い「湯島天神(湯島天満宮)」。駅から急な「男坂」の石段を上るにつれ,大都会の車の音は静かに遮られ,代わりに凛とした清浄な空気が身を包み始めた。

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湯島天神は,雄略天皇2年(458年)に天之手力雄命(あめのたぢからをのみこと)を祀って創建されたと伝えられる古社である。

その後,正平10年(1355年)に菅原道真公(天神様)が勧請され,以来,江戸時代から現代に至るまで,数多くの学者や文人,そして受験生たちの心の拠り所として信仰を集め続けてきた。境内へ一歩足を踏み入れると,冷たい風のなかに,ほんのりと甘く優しい香りが漂っているのが分かった。境内に植えられた約300本の梅の木々が,春の訪れを待ちきれずに,いくつかの小さな蕾をほころばせ始めている。そのささやかな白や紅の花びらは,張り詰めた受験期を戦う人々の心をそっと和らげるかのように,冬の淡い光を浴びていた。

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白木に刻まれた無数の願い,祈りの森を歩く

昼下がりの境内は,平日であるにもかかわらず,参拝客の波が途絶えることはない。とりわけ目につくのは,私と同世代,あるいは少し年上の受験生たちと,その行く末を案じる親たちの姿である。

拝殿の傍らに目を向けると,そこには言葉を失うほどの圧倒的な光景が広がっていた。
信じられないほどの密度で重ねられ,もはや一つの巨大な木造の壁のようになっている「絵馬掛け」である。

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五角形の白木に刻まれた,「合格祈願」「絶対突破」という黒々とした力強い文字の数々。
そこには,孤独な机の上で夜を徹して参考書と向き合ってきた,全国の受験生たちの切実な祈りと血の滲むような努力の痕跡が,文字の形をして凝縮されていた。高校生の私は,まだ見ぬ自分の未来の選択を思い描きながら,その祈りの森をそっと見つめた。賽銭箱に硬貨を落とし,二礼二拍手一礼。手のひらを合わせると,冷え切った指先から,神聖な静寂が胸の奥へと染み渡っていくのを感じた。

■ 湯島天神 参拝メモ(2014年1月現在)
湯島天神の境内は拝観自由。名物の「学業成就」のお守りや絵馬は,受験生へのお土産としても非常に人気が高い。2月に入ると「梅まつり」が開催され大変な混雑となるため,1月の冬枯れの時期に訪れるのは,境内の厳かな佇まいをじっくりと味わうには格好の選択と言える。

拝殿に一礼して鳥居をくぐり,私は湯島の丘を後にした。ここから上野方面へと東へ歩を進めると,わずか15分ほどの距離の間に,東京の街はその表情を180度変化させる。

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闇に浮かぶ朱のエネルギー,アメ横の迷宮へ

JR上野駅から御徒町駅の間の高架沿いへ差し掛かると,湯島天神の静寂が嘘のように吹き飛び,地響きのような活気と叫び声が私の鼓動を早めた。
そこは,戦後の闇市をルーツに持つ,日本屈指の活気あふれる商店街「アメ横(アメヤ横丁)」である。

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アメ横の歴史は,昭和20年(1945年)の終戦直後に始まる。
当時,物資が完全に枯渇していた日本において,砂糖の代わりに使われた芋飴を売る店が集まったこと,また進駐軍の放出物資(アメリカ製品)を扱う店が並んだことから,「アメヤ横丁」「アメリカ横丁」と呼ばれ,それが縮まってアメ横の名が定着した。全長約400メートルの通りには,2014年現在も400以上の店舗がひしめき合い,衣料品から海産物,世界各国の怪しげな食材までが所狭しと並んでいる。

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時刻は夕暮れ時。高架下の商店街には,ぽつり,ぽつりと裸電球やネオンが灯り始め,夕闇のなかに妖艶な朱色のグラデーションを描き出していた。
「安いよ!」「買った、買った!」と,威勢の良い叩き売りの掛け声が響き渡り,すれ違う人々と肩がぶつかり合う。この圧倒的なカオスと,地に足のついた人間のエネルギー。湯島天神が「未来への祈り」の場であるならば,ここアメ横はまさに「今を生きる」人間の泥臭い生命力の実験場そのものであった。

■ アメ横 食べ歩きミニ知識(2014年1月現在)
アメ横といえば,近年は多国籍なアジア風の屋台や食べ歩きグルメの聖地としても知られている。カットフルーツやケバブ,中華点心などが数百円から楽しめ,高校生のお小遣いでもお腹いっぱい本場の活気を味わえるのが大きな魅力である。

周囲を見渡せば,仕事帰りのサラリーマンや外国人観光客,地元の買い物客が,誰もが笑顔でこの喧騒のなかの一時を楽しんでいる。

軌道は巡り,日常のレールの先へ

気がつけば,上野の空は完全に深い藍色へと沈み,高架線上を走る山手線や京浜東北線の電車の音が,ガタゴトと規則正しく頭上で響いていた。

湯島天神の静寂で,自らの内面と深く向き合い。
アメ横の熱狂で,世界の圧倒的な広さと人間のエネルギーに圧倒される。
東京という街が持つ,この極端な二面性を徒歩わずか数分で行き来したこの片道旅行は,高校生の私の拙い感性を心地よく揺さぶり,リュックサックの中に目に見えない確かな豊かさを満たしてくれた。

私は,現代の日常へと連れ戻してくれる帰りの電車のホームへと向かうため,光の粒子が躍るアメ横の迷宮を後にした。駅の改札をくぐり,電車のシートに深く腰掛けると,車内の暖房がじんわりと身体を包み込む。窓ガラスに映る自分の顔を見つめながら,私は湯島で触れた梅の蕾の硬さと,アメ横で聴いた力強い掛け声を,これから始まる自分の戦いへのお守りのように胸の奥でそっと反芻し続けたのである。

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