【漆黒の夜行高速バス】大宮・所沢から古都へ直行。高校生が旅した「京阪神ドリームさいたま号」

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取材:2014年1月

凍てつく所沢の夜。古都への扉を開く,漆黒の巨体の到来

冬の夜の底は,静寂と冷気で満たされている。

2014年1月。防寒着に身を包み,西武新宿線・池袋線の所沢駅東口にあるバスロータリーに立っていた。通学カバンをリュックサックに持ち替え,明日の朝には遠く離れた千年の古都・京都へと降り立つ。新幹線を使えばわずか数時間の距離。しかし,限られたお小遣いをやりくりする高校生の私にとって,そして未知なる夜の移動にロマンを追い求める旅人にとって,「夜行高速バス」を選ぶことは必然であり,最高に刺激的な冒険の始まりであった。

普段であれば自宅でテレビを見ながらゆっくりしている時間帯。静まり返ったロータリーに,ゴツゴツとした力強いエンジン音を響かせながら,1台の巨大なバスが滑り込んできた。白地に青いライン,そして誇らしげに書かれた「JR」のロゴ。それこそが,埼玉と関西を結ぶ夜の鉄人,「京阪神ドリームさいたま号」である。

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「京阪神ドリームさいたま号」は,西日本JRバスと西武観光バスが共同運行する,埼玉(大宮・所沢)と京都・大阪・ユニバを結ぶ伝統的な長距離夜行高速バス路線である。

かつては新木場や東京駅から出発する路線が主流であったドリーム号だが,埼玉エリアからの旺盛な需要に応える形で誕生した。東京の過密な乗り換えを回避し,埼玉からダイレクトに関西へアクセスできる利便性は,2014年現在も多くのビジネスマンや学生、旅行者に支持されている。乗車口で運転士に予約画面を提示し,車内へと一歩足を踏み入れる。そこには,日常の路線バスとは一線を画す,どこか秘密基地めいた旅の空間が広がっていた。

3列独立シートの繭に包まれ,眠らない高速道路を往く

この路線に投入されている車両の多くは,大型バス(三菱ふそう・エアロキングなど)や,堂々たる体躯のハイデッカー車である。私が指定された席は,このバスの最大の武器とも言える「3列独立シート」の空間であった。

通路を挟んで1席ずつ完全に独立した配列。隣の乗客に気兼ねすることなく,プライベートな空間が確保されている。
高校生の私にとって,格安の4列シート(観光バスタイプ)の窮屈さに比べ,この3列独立シートはまさにファーストクラスのような贅沢さに思えた。シートには厚手のレッグレストやフットレスト,そして頭部を包み込む枕が備わっており,リクライニングを深く倒せば,身体は瞬時に心地よい「繭」のような空間に収まる。

■ 京阪神ドリームさいたま号 乗車ミニ知識(2014年1月現在)
所沢駅東口を22時10分頃に出発する便(運行スケジュールによる)は,大宮駅からの乗客を乗せた後,所沢・立川を経由して関越自動車道・圏央道・中央自動車道を経由して西へと向かう。車内には中央床下に清潔なトイレが設置されており,長時間の乗車でも安心である。また,各座席には毛布が用意されており,冬の車内の防寒対策も行き届いている。
大宮駅を20時50分に出発,途中和光市駅・東所沢駅・所沢駅・東大和市駅・立川駅を経由し翌朝京都駅・大阪駅・ユニバにダイレクトアクセスができる利便性の高い路線である。

22時15分,バスは定刻より若干遅れて所沢駅東口を静かに発車した。
一般道を少し走り,立川を過ぎた後インターチェンジから高速道路へと進入すると,バスのエンジン音は一定の低いハミングへと変わる。やがて車内の照明が落とされ,深い「完全消灯」の時間が訪れた。

厚手の遮光カーテンに遮られた窓の外には,真夜中の日本の大動脈が広がっているはずだ。ガタゴトと,あるいはフワリと,大型バス特有のエアサスペンションが路面の凹凸をいなし,心地よい揺りかごのように私を眠りへと誘う。時折,サービスエリアでの乗務員休憩のためにバスが静かに減速する気配を感じながら,私は夢と現実の境界線を漂うような,夜行バスならではの贅沢な孤独の時間を楽しんでいた。

霧の東海道を抜けて。朝焼けの京都駅烏丸口への降臨

夜が明ける気配を感じて目が覚めると,車内には「まもなく,京都駅烏丸口に到着いたします」という,運転士の静かで優しいアナウンスが響いた。
そっとカーテンの隙間から外を覗くと,窓ガラスは外の冷気で白く曇り,その向こうには,まだ眠りから覚めやらぬ古都の美しい街並みが,藍色の薄明かりの中に浮かび上がっていた。

名神高速道路の京都南を過ぎ,バスは一般道へと下りていく。
午前6時過ぎ。所沢から約6時間半の夜の航海を終え,京阪神ドリームさいたま号は,静寂に包まれた「京都駅烏丸口」のバスのりばへと滑り込んだ。

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タラップを降りると,京都の冬特有の,底冷えのする痛いほどの寒気が私の全身を貫いた。
しかし,その冷気が逆に,一晩中バスに揺られて少し火照っていた身体と頭をシャキッと引き締めてくれる。振り返れば,私を無事に送り届けてくれた白い巨体が,ハザードランプを明滅させながら,次の目的地である大阪へと向けて再び出発する準備を整えていた。夜を徹してハンドルを握り続けた運転士の背中に,心の中で深く感謝の礼を述べる。

■ 京都駅烏丸口に到着した朝の過ごし方
早朝6時台の京都駅周辺は,多くの観光施設や飲食店がまだ閉まっている。しかし,烏丸口すぐの京都駅ビル内や周辺の喫茶店では,早朝から営業している店舗もあり,夜行バスを降りた旅人が温かい珈琲や朝食を求めて集まる。ここで一息つき,身支度を整えてから,朝一番の静かな清水寺や金閣寺へと向かうのが,夜行バス利用者の王道の特等席ルートである。

目の前にそびえ立つ,近代的な京都駅ビルのガラス壁。そしてその向こうに,うっすらと朝焼けのピンク色に染まり始めた「京都タワー」が,ろうそくの炎のように厳かに立っていた。

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新幹線のスピードでは決して味わえない,一歩一歩,夜の闇を物理的に削りながら移動してきたという確かな距離感。
高校生の私のリュックサックには,埼玉の夜の寒さと,バスのシートの中で過ごした長い思索の時間,そして古都の美しい夜明けの光が,目に見えない確かな旅の勲章として仕舞い込まれていた。私は,温かい缶コーヒーをポケットに押し込み,まだ観光客の姿のない,歴史の息吹が色濃く残る京都の路地裏へと向かって,力強く歩みを進めたのである。

京都・夜行高速バスの旅を愉しむために

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