【小江戸の夕暮れ】時の鐘が響く黒漆喰の町並みへ。東武東上線で旅した川越蔵造りの旅情

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取材:2013年12月

賑わいの街道を抜けて、時の止まった黒漆喰の街へ

冬の澄んだ陽光が,車窓から差し込み,座席を暖かく照らしていた。

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冷え切った空気のなか,私は東武東上線の川越駅に降り立った。冬休みの旅を満喫している高校生の私は,東京のすぐ隣に今もなお「江戸」の面影を色濃く残すという古都を目指していた。改札を抜け,東口から外に出ると,近代的なペデストリアンデッキと再開発された商業ビルが立ち並び,一見すると現代の典型的なベッドタウンの風景が広がっている。しかし,ここから北へと伸びる1本の長い街道こそが,過去へと続く時間旅行のプロローグであった。

私は、駅前から始まる「クレアモール(川越サンロード商店街・脇田街)」へと足を進めた。

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クレアモールは,川越駅から本川越駅方面へと南北に約1200メートル続く,関東屈指の活気を誇る大商業商店街である。
ファストフード店や衣料品店,地元のお惣菜屋がひしめき合い,自転車で行き交う買い物客や,私と同年代の高校生たちの楽しげな話し声が響き渡っている。どこにでもある,しかし愛おしい現代の日常。そのエネルギーに満ちた喧騒を肌で感じながら歩みを進めるにつれ,周囲の建物の高さが少しずつ低くなり,通りの空気がかすかに変化していくのが分かった。西武新宿線の本川越駅を過ぎ,さらに北上を続けると,ついに近代的な看板は姿を消し,目の前に圧倒的な重厚感を持った異空間が現れた。

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小江戸川越一番街商店街」,すなわち蔵造りの町並みである。

川越が「小江戸」と称される所以は,江戸時代に川越藩の城下町として栄え,新河岸川の舟運を通じて江戸の文化や経済と深く結びついていた歴史に由来する。

特に一番街に立ち並ぶ建築群は,明治26年(1893年)に街の大半を焼き尽くした「川越大火」を教訓に,当時の商人たちが類焼を防ぐために莫大な費用を投じて建てた「蔵造り」の店舗住宅である。夕方を迎え,淡い西日に照らされた黒漆喰(くろしっくい)の外壁は,まるで古い墨絵のように深い陰影を帯びて,現代を生きる私を無言で圧倒した。

茜空に響く,三層の櫓と「時の鐘」の音

一番街の通りを進むと,道の両側には,豪壮な観音開きの窓や,どっしりとした瓦屋根を戴いた意匠の美しい蔵が連なっている。
大火を生き残った江戸時代建築の「大沢家住宅(国の重要文化財)」をはじめ,明治の職人たちが技を競い合った名建築の数々。建物そのものが歴史の生き証人であり,教科書の1ページがそのまま街として具現化したかのような光景に,高校生の私はただただ感嘆するばかりであった。

通りから少し右手の路地へ折れると,川越の絶対的なシンボルが夕空へとその背を伸ばしていた。「時の鐘(鐘撞堂)」である。

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寛永年間(1624年〜1644年)に川越城主・酒井忠勝によって創建されて以来,幾度となく火災で焼失しながらも,その度に川越の商人たちによって再建されてきた。現在の鐘楼は,明治の大火の直後に建てられた4代目のもので,高さ約16メートルの木造三層の櫓である。

■ 小江戸川越 散策ミニ知識(2013年12月現在)
川越駅からのんびり歩いて一番街までは約25〜30分。街歩きに最適な「小江戸名物・お芋のスイーツ」や,焼きたての醤油煎餅などの食べ歩きグルメは,1個100円〜数百円程度から楽しめる。多くの店舗が夕方17時頃には閉店準備に入るため,情緒ある夕暮れを楽しみつつお土産を選ぶなら,15時前後の到着がベストと言える。

時計を見れば,ちょうど午後3時を回るところであった。
突如,櫓の上から「ゴーン、ゴーン」と,深く,五臓六腑に染み渡るような重厚な音が街に響き渡った。1日に4回(午前6時、正午、午後3時、午後6時)自動で撞かれる,歴史ある鐘の音だ。

その音色は,かつて江戸の時間を生きた人々と,現代の慌ただしい日常を生きる私たちを結ぶ架け橋のように,冬の澄んだ茜空へと吸い込まれていく。「日本の音風景100選」にも選ばれたその残響を聴きながら,私は路地のベンチで,名物の温かい「芋恋(お饅頭)」を頬張った。モチモチとした生地の中から,甘いさつまいもと餡の素朴な味わいが広がり,寒さで悴んだ身体を内側からじんわりと解きほぐしてくれた。

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影が伸びる街角。日常の鉄路への帰路

一番街の通りに戻ると,太陽は西の地平線へと沈みかけ,黒漆喰の壁に長い,長い影を落としていた。
蔵の軒先に吊るされた暖簾が冬の冷たい風に揺れ,ぽつり,ぽつりと街路灯が灯り始める。夕闇が迫る小江戸は,昼間の観光地としての華やかさから,どこか寂寥感を帯びた,小説の終章のような美しい静寂の中へと移り変わっていく。

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私は,自分の生きる現代へと戻るため,再び歩いてきた道を南へと引き返し始めた。
本川越駅を過ぎ,クレアモールの賑やかな光の中へと戻ると,再び現代の高校生たちの笑い声や,スマートフォンの電子音が街に満ちていく。しかし,私のリュックサックの中には,つい先ほどまで見上げていた黒漆喰の重厚な佇まいと,茜空に響いた時の鐘の余韻が,消えない体温のように確かに仕舞い込まれていた。

東武東上線の川越駅のホームへと戻り,池袋行きの急行列車に乗り込む。
ガタゴトと規則正しく響くレールの音を聴きながら,私は窓の外に流れる埼玉の夜景を見つめた。通り過ぎれば,わずか半日の小旅行。しかし,一本の街道を歩くことで出会ったあの江戸の幻影は,私の日常の風景を少しだけ豊かに変えてくれる,特別なお守りとなったのである。

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