【高山本線・乗車記】夕暮れのローカル線で旅情に浸る。富山〜猪谷,キハ120形が運ぶ夏の終わりのノスタルジーと歴史の足跡

本ページはプロモーションが含まれています

取材:2014年7月

旅の始まり:真夏の富山駅から,高山本線のディーゼルカーへ

2014年7月,うだるような暑さが残る夕暮れ時。私は富山駅のホームに立っていた。北陸新幹線の開業を翌年に控え,高架化工事が進む駅構内は,どこか慌ただしい熱気に包まれている。しかし,これから乗り込む高山本線のホームだけは,都会の喧騒から切り離されたかのような,独特の緩やかな時間が流れていた。

60D_143427

目指すは,富山県と岐阜県の県境に位置する境界駅,猪谷(いのたに)だ。

ホームで待っていたのは,朱色とクリーム色のツートンカラーをまとったコンパクトな気動車,キハ120形である。わずか2両,または2両で走るこのディーゼルカーは,ローカル線旅の最高の主役だ。

【2014年7月当時・富山駅のワンポイント】
当時の富山駅は新幹線開業直前の過渡期。地上ホームと仮設ホームが混在し,旅情と開発のエネルギーが同居する独特の雰囲気であった。
60D_143429

夕方16時を過ぎた車内は,学校帰りの高校生や,買い出し帰りの地元住民で予想以上に混雑していた。すべてのボックス席とロングシートは埋まっており,私はドア付近で立ち席を余儀なくされる。しかし,それも悪くない。窓を開けることはできないが,運転席越しに広がる前面展望を特等席で眺められるからだ。

定刻,エンジンが重低音を響かせ,列車はゆっくりと富山駅を滑り出した。

西日に染まる車窓と,歴史を刻む神通川の渓谷

列車が市街地を抜け,南へと進路を取るにつれて,車窓は一気に緑の深みを増していく。天候は快晴。傾きかけた太陽が,車内に強烈な西日を投げ入れる。高校生たちの賑やかなおしゃべりや,部活動のバッグの匂い。それは,かつて誰もが通り過ぎた「地方の日常」という名の,あまりにも美しい1コマであった。

60D_143435

越中八尾(えっちゅうやつお)駅を過ぎる頃になると,車内からは乗客がパラパラと減り始め,ようやく空いたロングシートに腰を下ろすことができた。

60D_143437

ここから,高山本線はその本領を発揮する。車窓の右手に,エメラルドグリーンの水面を湛えた神通川(じんづうがわ)が姿を現した。

高山本線の歴史と神通川
高山本線は,富山と岐阜の高山を結ぶ大動脈として昭和初期に全通した。かつては急行「ひだ」や,富山地方鉄道から乗り入れる特急「北アルプス」などが駆け抜けた歴史ある路線である。列車が走るルートは,古くから「飛騨街道」と呼ばれ,富山の薬売りや,飛騨の「ぶり街道」としても栄えた歴史の道だ。

列車は速度を落とし,いくつものトンネルを潜り抜けていく。トンネルを抜けるたび,車窓に広がる渓谷美は険しさを増し,夕暮れの光と影が交互に車内を走る。ディーゼルエンジンの唸り声だけが,静まり返った車内に響き渡っていた。

黄昏の境界駅,猪谷に到着。木造駅舎が語る過去

60D_143439

富山駅から約1時間。日没の手前,マジックアワーと呼ばれる最も美しい時間帯に,列車は終点の猪谷駅に滑り込んだ。

ドアが開くと,山の冷気を含んだ涼しい風が吹き込んできた。富山駅の蒸し暑さが嘘のようだ。

猪谷駅は,JR西日本とJR東海の世界の境界線である。ここから先,高山・名古屋方面はJR東海の管轄となり,列車の運行系統も分断される。かつては貨物輸送や,特急の乗務員交代で大いに賑わったというこの駅も,今は静寂に包まれている。

60D_143444

ホームに降り立ち,跨線橋を渡って駅舎へと向かう。そこに佇んでいたのは,長い年月を経て黒ずんだ,重厚な木造駅舎であった。

60D_143445

高い天井、使い古された木製のベンチ。かつて多くの旅人や鉄道員が行き交ったであろう広い待合室には,今は私一人しかいない。窓外に目をやると,周囲を取り囲む山々の稜線が,深い藍色のシルエットとなって空に浮かび上がっている。

大正から昭和、そして平成へ。時代に取り残されたかのようなその空間で,私はただ,贅沢な孤独に浸っていた。高校生の私にとって,この誰もいない古い駅舎は,世界の果てに辿り着いたかのような錯覚さえ覚えさせるものだった。

夜の帳が下りる頃。富山へ戻る,贅沢な復路

駅の周囲を少し散策している間に,日は完全に落ち,あたりは一辺の漆黒に包まれた。街灯の少ない猪谷の夜は深い。

折り返しの富山行き列車が,ホームでぽつんと明かりを灯して待っている。

再びキハ120形に乗り込む。往路の混雑が嘘のように,車内には私しか乗っていない。

60D_143448

19時過ぎ、列車は静かに猪谷駅を離れた。
車窓はも,何も見えない。ただ,ガラス窓に映る自分の顔と,暗闇の奥で時折きらめく街灯や,神通川の水面に反射する月光だけが,列車が前進していることを教えてくれる。

ガタンゴトン、ガタンゴトン。

規則正しいレールジョイントの音が,心地よい子守唄のように響く。富山駅に近づくにつれ,車窓の明かりは徐々に増え,現実の世界へと引き戻されていく。

わずか数時間の往復旅。しかし,夕暮れから夜へと移り変わる高山本線の車窓と,あの猪谷駅の木造駅舎の佇まいは,私の心に「旅の原風景」として深く刻まれることとなった。

ローカル線には,新幹線では絶対に味わえない「移動そのものが物語になる」魅力が,確かに詰まっている。

旅を豊かにするおすすめアイテム・予約リンク

今回の高山本線の旅のような,風情あるローカル線旅を計画しているあなたへ。旅をより快適に,そして深く楽しむための厳選アイテムと予約サイトをご紹介します。

旅の計画・宿泊予約はこちらから

旅の思い出を綺麗に残すアイテム

[大容量モバイルバッテリー(楽天市場)]:ローカル線は電波が不安定な場所も多く,スマホの電池消費が激しいため必須アイテムです。

鉄道と歴史をもっと深く知るための本

[時刻表(楽天ブックス)]:全国のローカル線の魅力を網羅した一冊。旅の予習に最適です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました