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取材:2014年7月
はじめに:青春18きっぷで降り立つ,夏の高岡駅
金沢方面からの普通列車に揺られ,ガタゴトと響く線路の音に耳を傾けているうちに,列車は高岡駅へと滑り込んだ。
7月の太陽は容赦なく照りつけ,ホームに降り立った瞬間に,ねっとりとした夏の空気が身体を包み込む。高校生の私にとって,この「青春18きっぷ」を使った気ままな旅は,少しの緊張と,それを遥かに上回る高揚感に満ちていた。
北陸新幹線の開業を翌年に控え,新しく生まれ変わった高岡駅。その一角に,目指す「万葉線」の乗り場はある。かつての地上ホームから装いを新たにし,駅ビル「クルン高岡」の1階へと乗り入れた近未来的なステーションだ。
券売機で「万葉線1日フリーきっぷ(大人800円)」を購入する。これ一枚で,これから向かう路面電車の旅がすべて自由になる。心強い相棒をポケットにしまい,私はホームへと向かった。
未来型の低床車両「アイトラム」で越ノ潟へ
ホームで待っていたのは,鮮やかな赤い車体が目を引く超低床車両「アイトラム(MLRV1000形)」である。路面電車といえば古めかしい車両を想像していたが,目の前にあるのはまるでヨーロッパの街角を走っていそうな洗練されたデザインだ。
ドアが閉まり,滑らかに発車する。
万葉線(高岡駅〜越ノ潟)の基本情報
路線距離: 12.9km
所要時間: 片道約50分
運行頻度: 日中15分間隔(非常に利用しやすいダイヤである)
車内は冷房が心地よく効いている。大きな窓からは,高岡の古い街並みが映画のスクリーンのように後ろへと流れていく。市街地を抜けると,電車は専用軌道へと入り,速度を上げた。
左手に工場の煙突を,右手にどこか懐かしい民家を眺めながら,ガタゴトと震える車内でファインダーを覗く。車窓に映る自分の顔は,旅の暑さのせいか,あるいは高揚のせいか,少し上気しているように見えた。
終点の「越ノ潟(こしのがた)駅」までは約50分の短い旅。しかし,窓の外を流れる景色は,都会のそれとは違う,時間がゆっくりと流れる地方都市の,そして港町の確かな営みを伝えていた。
県営連絡船と新湊大橋の絶景
終点の越ノ潟駅に到着すると,目の前にはもう,青々とした富山湾へと繋がる港が広がっていた。ここからは,対岸の堀岡へと結ぶ「富山県営渡船(通称:越ノ潟フェリー)」に乗り換える。
この連絡船は,かつて1本の陸地だった場所を富山新港の開削によって分断したため,その代替として運航されている。そのため,運賃は驚くことに「無料」である。
船に乗り込み,デッキへと出る。快晴の空の下,潮風が汗ばんだ肌をなでていく。行く手にそびえ立つのは,2012年に開通したばかりの「新湊大橋」だ。日本海側最大級の斜張橋であり,白い主塔が青空に向かって真っ直ぐに突き刺さるその姿は,まるで現代のアートのようである。
船が波を蹴立てて進む。わずか5分ほどの船旅。堀岡に到着し,乗船してきた船が再び折り返す。遅れないように私もまた,すぐに乗り込んだ。
振り返れば,新湊大橋の向こうに、どこまでも広がる日本海の水平線が見えるような気がした。夏の陽炎に霞むその景色を,私は深く胸に刻み込んだ。
昔ながらの「デ7070形」と米島口の車庫見学
越ノ潟駅に戻り,次に乗車したのは,先ほどとは打って変わってレトロな「デ7070形」であった。1960年代からこの地を走り続ける,これぞ路面電車という無骨なスタイル。非冷房の車内(一部改造車を除く)に扇風機が回り,窓から入る生ぬるい風が心地よい。
途中の「米島口(よねじまぐち)駅」で途中下車する。ここには万葉線の本社と車庫がある。
ホームから少し歩くと,出番を待つ車両たちが規則正しく並んでいるのが見えた。派手なラッピングを施された車両,昔ながらの緑と黄色の旧塗装車。現役で走り続ける鉄の塊たちから,油と鉄の匂いが混ざり合った,どこか懐かしい匂いが漂ってくる。
高校生の私にとって,こうした「生きた鉄道の裏側」を眺める時間は至福であった。15分後の次の電車が来るまで,カメラのシャッターを切り続けた。
坂下町で下車,日本三大仏「高岡大仏」と対面する
旅の締めくくりに,私は「坂下町(さかしたまち)駅」で下車した。目指すは,歩いて数分の場所にある「高岡大仏」である。
住宅街の路地を曲がると,突如としてその巨大な姿が現れた。奈良、鎌倉に並ぶ「日本三大仏」の一つに数えられる,総高約16メートルの青銅製の大仏である。
夏の強い日差しが,大仏の穏やかな表情をはっきりと照らしている。かつて大火によって何度も木造の大仏が焼失し,地元の職人たちの伝統技術(高岡銅器)を結集して,この燃えない銅製の大仏が再建されたという歴史がある。
大仏の前に立ち,手を合わせる。旅の安全と,この夏の思い出が色褪せないことを祈った。
与謝野晶子が「鎌倉大仏より一段と美男」と評したというその顔立ちは,確かに端正で,見上げる私を優しく見守ってくれているようであった。
ポケットの1日乗車券は,すっかり私の手汗で少しだけ折れ曲がっていた。しかし,それこそが今日という日を全力で旅した証拠のように思えて,私は少し誇らしい気持ちで高岡駅へと戻る電車を待った。
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