【日本三景の今を歩く】復興への鉄路と千年の祈り。松島から瑞巌寺五大堂に至る春の記憶

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取材:2014年3月

鉄路の尽点,高城町駅。東日本大震災の傷痕を見つめて

春の柔らかな光が,仙石線の車窓を白く染めていた。

2014年3月。東日本大震災から3年という月日が流れた春休み,私はJR仙石線の各駅停車に揺られていた。高校生の私は,日本三景の一つとして名高い「松島」を目指していた。しかし,私は観光の拠点である松島海岸駅をあえて通り過ぎ,まずはその先にある「高城町(たかぎまち)駅」へと向かった。そこには,2014年現在だからこそ,この目で見ておかなければならない「現実」があったからである。

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高城町駅に降り立つと,午前中の抜けるような青空とは対照的に,どこか張り詰めた静寂が駅構内を支配していた。
ホームの端へと歩みを進め,石巻方面へと続く線路を見下ろす。そこには,錆び付いたまま行く手を阻まれた,不自然に途切れた鉄路が横たわっていた。

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仙石線は,大正時代に宮城電気鉄道として開業した,仙台と石巻を結ぶ重要な幹線である。
しかし,2011年の大震災による津波で沿線は壊滅的な被害を受け,いま私が立っている高城町駅から陸前小野駅の間は,3年が経過した今もなお不通のままであった。バラストは流出し,架線は外され,かつて多くの通学客や買い物客を乗せた列車が往来していた線路は,茶色く乾いた雑草に覆われている。
高校生の私は,大自然の圧倒的な破壊力と,そこから立ち上がろうとする人々の長い戦いの息遣いを,その荒れた鉄路の造形から静かに感じ取っていた。人間の営みの脆さと,それでも明日へと繋ごうとする意志。私は心の中で祈りを捧げ,再びやってきた上り列車に乗り込み,松島海岸駅へと引き返した。

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観瀾亭の畳から見つめる,伊達の海と黄金の輝き

松島海岸駅で下車すると,駅前には磯の香りと,名物の焼き牡蠣を蒸す温かな湯気が漂っていた。
まず足を向けたのは,駅から歩いてすぐの崖上に佇む「観瀾亭(かんらんてい)」である。

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観瀾亭は,文禄の役の際に豊臣秀吉から伊達政宗公が拝領した伏見城の化粧御殿を,二代藩主・忠宗公がこの地に移築したと伝えられる由緒ある建物である。
「瀾(なみ)を観る」という名の通り,かつて伊達の殿様や姫君たちが,松島湾の美しい月を愛でるための極上の特等席であった。

靴を脱ぎ,磨き上げられた畳の部屋へと上がる。
快晴の午前中の光が,眼前に広がる松島湾の穏やかな海面をきらきらと金色に輝かせていた。障子を開け放ち,寄せては返す漣の音に耳を澄ませる。湾内に点在する無数の奇岩や松の島々が,まるで一幅の絵画のように切り取られて視界に飛び込んでくる。冷たい風が時折,御殿の柱を吹き抜けていくが,陽だまりの畳の上は驚くほど温かい。高校生の私は,かつてこの場所で天下を論じ,風流を愛した伊達の人々と同じ景色を見つめているという事実に,深い感動を覚えていた。

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■ 2014年3月現在・松島散策ミニ知識
仙石線の高城町〜陸前小野間は代行バスによる運行が続けられており,全線復旧(仙石東北ラインの開業を含む)は翌2015年を予定している。しかし,松島海岸駅周辺の主要観光地は力強く営業を再開しており,1200年の歴史を誇る名刹を静かに巡るなら,観光客の比較的少ない早春の午前中が最も格好のタイミングである。

千年の祈りが宿る,瑞巌寺五大堂のすかし橋

観瀾亭を後にし,海岸沿いの参道を東へと歩く。
潮風に揺れる松並木の向こうに,海へと突き出た小さな島が見えてきた。五大明王を祀る,松島のシンボル「五大堂」である。

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五大堂は,大同2年(807年)に坂上田村麻呂が毘沙門堂を建立したことに始まり,後に慈覚大師円仁が瑞巌寺の前身となる延福寺を開いた際,五大明王を安置したことからその名がついた。現在の建物は,慶長9年(1604年)に伊達政宗公が桃山建築の粋を集めて再建した,東北地方最古の桃山建造物である。

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島へと渡るため,名物の「すかし橋」へと足をかける。
板と板の間が大きく開き,足元からはるか下の青い海水が波打つ様子が丸見えになっているスリリングな構造だ。
「足元を見て,気を引き締めて参拝するように」という先人たちの教えが込められた橋を,リュックサックを揺らしながら一段一段,慎重に渡り切る。

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島の上に佇む五大堂の素木の堂宇は,潮風に晒されながらも,400年の歳月を耐え抜いた圧倒的な威厳を放っていた。
堂の周囲を歩けば,四方から松島湾のパノラマが広がる。曇りのない青空と,どこまでも青い海。3年前の津波の際,松島は湾内の島々が緩衝材となったことで,周辺地域に比べて奇跡的に被害が軽微であったという歴史の皮肉を思い出す。自然の優しさと厳しさが同居するこの海に向かって,私は静かに手を合わせた。

鉄路の結び目へ。松島駅から仙台への帰路

五大堂の参拝を終えた私は,松島海岸の賑やかなエリアを離れ,北へと向かって歩き始めた。
目指すは,東北本線の「松島駅」である。仙石線の松島海岸駅とは少し離れた場所にある,もう一つの松島の玄関口だ。

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住宅街の緩やかな坂道を歩くこと約20分。路傍の影に残るわずかな残雪を踏み締めながら進むと,どこか素朴な佇まいの松島駅が見えてきた。
ホームに上がると,やがて滑り込んできたのは,東北本線の主力であるステンレスに緑と赤の帯を巻いた「E721系」電車であった。

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午前10時前,列車は松島駅を静かに発車した。
仙石線が海沿いを細かく走るのに対し,東北本線は力強い足取りで内陸のトンネルや切り通しを俊足で駆け抜けていく。車窓から時折チラリと見える松島湾の青に別れを告げ,列車は徐々に大都会の表情を取り戻していく。約25分後,列車は多くの通勤客や旅行客が行き交う,近代的な「仙台駅」へと到着した。

不通の線路が語る現実を見つめ,伊達の殿様が見つめた金色の海に癒やされ,千年の祈りが宿る堂宇に未来を誓った,この片道の小さな旅。
通り過ぎれば,冬の終わりに挟まれたわずかな寄り道。しかし,あの眩しい晴天の下で見た松島のコントラストは,高校生の私の拙い感性を心地よく揺さぶり,リュックサックの中に目に見えない確かな豊かさを満たしてくれた。

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私は,次なる旅の目的地へと向かうため,仙台駅を後にした。賑やかな駅構内で頭上に響く規則正しいアナウンスを聴きながら,私は今日体験した奥州の海の優しさと,復興へ向かう人々の力強い眼差しを,胸の奥でそっと反芻し続けたのである。

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