【奥久慈の清流を抜けて】本州を縦断する大自然のローカル線。JR水郡線「キハ130系」常陸大子での切り離しと全線走破の記録

本ページはプロモーションが含まれています

取材:2014年3月

旅立ちの朝。水戸駅の喧騒を離れ,非電化の桃源郷へ

春の訪れを予感させる柔らかな朝の光が,近代的な高架ホームを白く照らしていた。

2014年3月。冷たくもどこか瑞々しい風が吹き抜ける午前,私は茨城県の拠点駅,JR水戸駅のホームに立っていた。今日の私は,北関東から東北の懐へと続く,一本の長いローカル線に身を委ねようとしていた。その名はJR水郡(すいぐん)線。路線愛称「奥久慈清流ライン」の名で親しまれる,全長137.5キロメートルに及ぶ壮大な非電化単線である。

60D_141088

水郡線は,大正時代から昭和初期にかけて,水戸と福島県の郡山を結ぶべく建設された歴史を持つ。
かつては奥久慈の山々から産出される木材や鉱物の輸送,そして沿線住民の貴重な足として,日本の近代化と戦後復興を陰で支え続けた大動脈であった。ホームに滑り込んできたのは,赤や黄,青の鮮やかなカラーリングをまとった「キハ130系」気動車。ステンレスの車体が朝日を浴びてきらきらと輝いている。

60D_141097

午前9時過ぎ,ディーゼルエンジンが「カラカラ……」と心地よいアイドリング音を響かせ,列車は水戸駅を静かに発車した。
都会的なビル群を抜けて常磐線と別れを告げると,車窓の風景は一気にのどかな田園地帯へと移り変わっていく。架線のない広い空。遮るもののない晴れ渡った青空から差し込む陽光がボックスシートを暖かく満たし,車輪が刻む規則正しいジョイント音が,まるで遠い異国へ向かう旅の序曲のように私の胸を高鳴らせた。

上菅谷で常陸太田方面への支線を見送り,列車はいよいよ山深き「奥久慈」の領域へと分け入っていく。

久慈川のせせらぎと,常陸大子駅で見つめた「一瞬の別れ」

山方宿を過ぎる辺りから,水郡線の旅は最高のクライマックスを迎える。
車窓の左手に,キラキラと銀色に輝く美しい清流が現れた。一級河川「久慈川」である。列車はこの久慈川の蛇行に寄り添うように,何度も鉄橋を渡りながらゆっくりと坂を上っていく。

60D_141102
■ 奥久慈清流ラインの醍醐味
水郡線は,水戸から郡山へ向かう際,進行方向の「左側」の座席を確保するのが鉄則である。晴れ渡った午前中の光を受け,エメラルドグリーンに澄み切った久慈川の流れと,奥久慈の険しくも美しい男体山などの山容が,手の届きそうな距離で車窓を彩り続ける。
60D_141108

やがて列車は,水郡線の運行の拠点であり,運行管理の要所でもある「常陸大子(ひたちだいご)駅」へと到着した。
ここで,この列車の旅程における貴重な「儀式」が行われる。車両の切り離し(解放)作業である。

60D_141110

水戸からここまで3両編成で走ってきた列車は,利用者の減少するこの先の区間に備え,ここで後ろの車両を切り離し,身軽な姿となって郡山を目指す。高校生の私は,カメラを片手にホームへと降り立った。

駅員の鋭いホイッスルの音が,静かな構内に響く。
「オーライ,オーライ……」
連結器が外され,ガチャンと鈍い金属音を立てて,乗ってきた列車が前後に分かれる。かつて蒸気機関車が走り,今も転車台や広大な側線を残す由緒あるこの駅で,職人たちがテキパキと仕事をこなしていく姿は,まるで古い映画のワンシーンのように厳かで,どこかノスタルジックな情緒を漂わせていた。切り離された車両をホームで見送り,私は再び,2両になった列車へと乗り込んだ。

境界線を越えて。みちのくの風が吹く郡山へのラストラン

60D_141115

常陸大子駅を発車した2両編成の気動車は,さらにエンジン音を高く響かせ,茨城と福島の県境にある山陰の峠へと挑んでいく。
車窓の久慈川は次第に川幅を狭め,渓谷の装いを強めていく。下野宮を過ぎると,列車はついにみちのくの玄関口,福島県へと足を踏み入れた。

60D_141120

福島県側の最初の主要駅である磐城棚倉を過ぎると,これまでの険しい峡谷美から一転し,広大な「阿武隈高地」の裾野に広がる緩やかな盆地へと景色が開けていく。
車窓には,冬枯れの表情を残しつつも,どこか春の芽吹きを感じさせる東北の美しい田園風景がどこまでも続いていた。

■ 水郡線 全線走破の旅のミニ知識(2014年3月現在)
水戸から郡山までを途中で下車せず全線走破する列車は,1日に数本しか存在しない非常に貴重な存在である。所要時間は約3時間20分。全線を乗り通す運賃は大人2,590円であるが,春休み期間中であれば「青春18きっぷ」などのフリーパスを利用することで,非常にお得にローカル線の醍醐味を満喫できる。

磐城石川、泉郷と,列車は一駅一駅を丁寧に,噛み締めるように進んでいく。
お昼近くになり,車内には地元の高校生や買い出し帰りの高齢者の姿が増え,地域の生活路線としての温かな空気が満ちていた。ガタゴトと響く単線の振動。晴天の光を浴びながら,ディーゼルカーは東北本線との合流点である安積永盛を目指して,最後の直線を快走していく。

旅の終着。みちのくのクロスロードへ

安積永盛から複線の立派な東北本線へと合流すると,それまでののんびりとした単線の走りが嘘のように,列車はスピードを上げて終着駅へと滑り込んだ。

60D_141125

正午過ぎ,水郡線の旅は終点「郡山駅」にて終わりを迎えた。
ホームに降り立つと,そこには新幹線や大型の幹線列車が行き交う,東北屈指の要衝駅の近代的な喧騒が広がっていた。

水戸の眩しい朝から始まり,久慈川の清流に洗われ。
常陸大子での一瞬の別れを見届け,県境の山々を越えてみちのくへ。
ただ1本のレールを走ることで,これほどまでにドラマチックに移り変わる関東と東北の風景を体感したこの小旅行は,高校生の私の拙い感性を心地よく揺さぶり,リュックサックの中に目に見えない確かな豊かさを満たしてくれた。

60D_141128

私は,現代の日常の光が躍る郡山駅のコンコースへと向かうため,ここまで連れてきてくれたカラフルな気動車に別れを告げた。改札をくぐり,駅ビルの冷たい風を浴びなが,私は今日体験したディーゼルエンジンの温もりと,常陸大子で見た引き締まった職人の背中を,胸の奥でそっと反芻し続けたのである。

60D_141133

水郡線・奥久慈の旅を愉しみたいあなたへ

水戸・常陸大子(袋田の滝)・郡山周辺の宿泊予約はこちら
水郡線の魅力を120%楽しむなら,途中の常陸大子周辺での宿泊がおすすめです。日本三名瀑の一つ「袋田の滝」や,美肌の湯として名高い常陸大子温泉の温泉宿が旅の疲れを癒やしてくれます。また,始発・終着点である水戸駅や郡山駅周辺のシティホテルを拠点にすれば,翌日の東北・関東への移動も非常にスムーズです。

水郡線の旅を自宅で楽しむ映像集
大正・昭和の建設期から,台風による幾度もの災害を乗り越えて全線復旧を果たした現代に至るまで,水郡線が歩んできた不屈の歴史を今すぐ実感したいのであれば,Blu-rayがおすすめです。奥久慈の大自然と鉄路が織りなす絶景スポットを事前に見ておけば,実際現地で眺める車窓の景色が何倍も深く,面白いものに変わります。

JR東日本 水郡線運転席展望 水戸 ⇒ 郡山 / 水戸 ⇒ 常陸太田【Blu-ray】 [ (鉄道) ]

価格:5088円
(2026/6/22 15:02時点)
感想(0件)

奥久慈の清流とカラフルな気動車を美しく切り取るカメラ
晴れ渡った久慈川のエメラルドグリーンの水面,常陸大子駅でのダイナミックな車両切り離しの瞬間,そして東北ののどかな田園風景を,肉眼の感動そのままに鮮明に残すならミラーレス一眼が最適です。ローカル線の限られた荷物の中でも邪魔にならない,軽量コンパクトかつ高画質な最新モデルをご紹介。

コメント

タイトルとURLをコピーしました