【100年に一度の大改造】消えゆく昭和の営みと,胎動する未来の街。渋谷駅大工事の全貌と消えゆく名車たちを巡る紀行

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取材:2014年1月

宙に浮く重機,解体される鉄路。渋谷ヒカリエから見下ろす,変革の咆哮

冬の抜けるような快晴の青空が,ガラス一面に広がっていた。

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2014年1月。張り詰めた寒気のなか,私は渋谷駅東口にそびえ立つ新たなランドマーク,「渋谷ヒカリエ」の11階スカイロビーに立っていた。私は,いま,日本の歴史上でも類を見ないほど巨大な「変革」の渦中にあるこの街の鼓動を,この目で確かめたいと願っていた。眼下に広がるのは,さながら巨大な建築模型であり,同時に,絶え間なく変化し続ける生きた生き物の巣窟のようでもあった。

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前年の平成25年(2013年)3月,東急東横線の渋谷駅は,長年親しまれた高架ホームから地下へとその姿を消し,東京メトロ副都心線との相互直通運転を開始した。その大転換から約1年。地上に残されたかつての鉄路と,これからの未来を背負う新駅の建設現場は,まさにカオスそのものの美しさを放っていた。

ロビーの窓越しに見下ろす渋谷駅周辺は,無数のクレーンが幾重にも交差し,巨大な鉄骨が縦横無尽に組み上げられている。
かつて東横線の電車が滑り込んでいたカマボコ型の屋根は,一部がすでに取り壊され,剥き出しになった鉄筋の間を作業員たちがテキパキと動き回っている。駅の直上では,新しい超高層ビル(のちの渋谷スクランブルスクエアなど)の基礎となる鉄骨が,地中深くから天へと突き上げるように伸びていた。驚くべきは,絶え間なく続くJR山手線や埼京線,東京メトロ銀座線の運行を一切止めることなく,そのすぐ頭上や足元で,数千トンもの人工物を組み替えているという日本の土木・建築技術の凄まじさである。ガガガガ,と微かにガラスを震わせて届く重機の咆哮は,昭和の渋谷という劇場の幕を閉じ,新たな時代の幕を強引に開けようとする,街の産声のように私の胸に響いた。

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爆音のコルゲート,半蔵門線「8500系」で表参道へ

ヒカリエの近未来的なエスカレーターを乗り継ぎ,私は地下の深い闇へと潜り込んだ。
変わりゆく渋谷の地上を離れ,東京の地下を駆け巡る「鉄路の世代交代」を体感するためである。東急田園都市線・東京メトロ半蔵門線のホームで待っていると,トンネルの奥から,地響きのような凄まじいモーター音が近づいてきた。入線してきたのは,ステンレスの車体に一本の赤帯を巻いた,東急電鉄の伝説的名車「8500系」であった。

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8500系は,昭和50年(1975年)に登場し,東急の黄金期を支え続けた通勤形電車である。
車体表面に施された「コルゲート」と呼ばれる波板形状の補強が,いかにも昭和の無骨なステンレス車の風情を醸し出している。新型車両の導入が進む2014年現在において,この爆音を奏でるベテラン車両に出会えたのは,旅の神様からのささやかな贈り物に思えた。

列車に乗り込むと,重厚なコンプレッサーの音が車内に響き渡る。渋谷を発車した列車は,最高時速近くまで一気に加速し,暗闇のなかを疾走する。高校生の私は,シートに身を沈めながら,この武骨な鉄の塊がこれまで何億人もの通勤客を運び,東京の成長を支えてきた歴史の重みに思いを馳せていた。わずか数分,次の表参道駅で下車する。ホームに降り立つと,8500系は再び激しい風と爆音を残して,地下の迷宮へと消えていった。

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■ 東京地下鉄 散策ミニ知識(2014年1月現在)
東京メトロの初乗り運賃は160円(ICカード本格導入前の切符運賃)。今回のルート(渋谷〜表参道〜国会議事堂前・溜池山王〜銀座)のように,地下鉄各線を細かく乗り継いで東京の中心部を巡るなら,710円で東京メトロ全線が1日乗り放題になる「東京メトロ一日乗車券」を自動券売機で購入するのが断然お得であり,旅の強い味方となる。

異端のVVVF,千代田線「209系1000番台」で国会議事堂前へ

表参道駅で,私は東京メトロ千代田線へと乗り換えた。
次に私が狙いを定めていたのは,千代田線のなかでも極めて異彩を放つ,JR東日本からの直通車両「209系1000番台」である。

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この車両は,常磐緩行線と千代田線のストレートな直通運転用として,わずか2編成しか製造されなかった希少な存在である。
車体はJRの主力であった209系そのものだが,地下鉄線内の厳しい保安基準に対応するため,前面に非常用の貫通扉が設けられているのが大きな特徴だ。滑り込んできたエメラルドグリーンの帯を巻いた車両に乗り込むと,JR線内で聞き慣れた,しかし地下鉄のトンネル内で聴くとどこか新鮮な,独特のVVVFインバータ音が響き渡る。

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乃木坂・赤坂を過ぎ,列車は東京の政治の中枢である「国会議事堂前駅」へと滑り込んだ。
非常に深い地下に位置するこの駅のホームを歩き,長い連絡通路を通って,接続する南北線・銀座線の「溜池山王駅」へと移動する。昭和の官庁街の地下に張り巡らされた複雑なネットワークを歩く足音が,静かな地下通路に規則正しく響いていた。

オレンジ色の引き際,銀座線「01系」で華やぎの銀座へ

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溜池山王駅の銀座線ホームに立つと,これまでの地下駅とは異なる,どこか温かみのあるオレンジ色の光が目に飛び込んできた。
最後に私を迎えてくれたのは,アルミ車体にレトロなオレンジとホワイトの帯を巻いた,銀座線の絶対的エース「01系」であった。

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銀座線は,昭和2年(1927年)に上野〜浅草間で開業した,日本および東洋初の地下鉄である。
01系は,それまでの「黄色い地下鉄」のイメージを一新し,昭和58年(1983年)に登場。当時の最新技術を詰め込み,銀座線の近代化に大きく貢献した名車である。しかし,2014年現在,レトロモダンな新型車両「1000系」の増備が急ピッチで進んでおり,この01系も静かにその引き際を迎えようとしていた。

■ 銀座線01系の情緒
他の地下鉄路線に比べて一回り小さな車体,そして第三軌条方式(架線がなく,線路脇から電気を取る方式)特有の,どこかコンパクトでアットホームな車内空間。天井の冷房吹出口のデザインなど,随所に昭和末期の丁寧な職人技が光る。

列車は虎ノ門・新橋を抜け,目的地の「銀座駅」へと到着した。
ホームに降り立ち,去りゆく01系の四角いテールライトを見送る。昭和から平成を駆け抜けた名車の後ろ姿は,先ほど渋谷ヒカリエで見下ろした,消えゆく東横線高架ホームの記憶と静かに重なり合うようであった。

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地上へと階段を上ると,そこには快晴の冬の日差しを浴びてきらきらと輝く,銀座の華麗な街並みが広がっていた。
通りを行き交う洗練された人々,老舗百貨店の重厚な佇まい。しかしその足元には,100年前の先人たちが掘り進めた鉄路があり,今この瞬間も,古い主役から新しい主役へと,静かに,しかし確実にバトンが渡されている。

通り過ぎれば,わずか数駅の地下鉄の旅。しかし,変わりゆく渋谷の咆哮を耳にし,消えゆく名車たちの息遣いに触れたこの小旅行は,高校生の私の拙い感性を心地よく揺さぶり,心に目に見えない確かな豊かさを満たしてくれた。私は,現代の日常の光が躍る銀座の四差路を見上げながら,今日出会った鉄路の温もりと,変わりゆく街の強大なエネルギーを,胸の奥でそっと反芻し続けたのである。

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