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取材:2014年6月
夏の光が,すべてを眩しく照らしていた。高校生の私は,1枚の「青春18きっぷ」を手に,これから始まる長い鉄路の始まりである敦賀駅の,少しひんやりとした跨線橋を渡っていた。
北陸新幹線の金沢開業を翌年に控えたこの夏,北陸の鉄路は大きな変革の刻(とき)を迎えようとしている。今しか見られない景色,今しか聴けない音。それを心に刻むための,夏休みの旅である。
敦賀から武生へ:北陸本線の俊足普通列車と「北陸トンネル」の闇
敦賀駅のホームには,交直流電車の521系が静かに佇んでいた。2両編成のステンレス車体が,夏の強い陽射しを跳ね返して輝いている。車内に入り,進行方向左側のクロスシートに身を沈める。
定刻,列車は滑るように動き出した。加速するにつれて,モーターの硬質な音が車内に響く。しばらくすると,列車は日本屈指の長さを誇る「北陸トンネル」(13,870メートル)へと突入した。
■北陸トンネルとは?
1962年に開通したこのトンネルは,かつて杉津(すいづ)経由で急勾配を喘ぎながら越えていた木ノ芽峠を,一気に貫いた歴史的建造物である。
車窓は一瞬にして漆黒の闇に包まれ,車輪がレールを叩く轟音だけが鼓動のように響く。冷房の効いた車内で,トンネルの歴史の重みに思いを馳せる。高校生の私にとって,この闇の長さはどこか異世界へと続くトンネルのようにも思えた。
10分以上におよぶ闇を抜けると,そこは木々の緑が瑞々しい南条盆地であった。車窓には、青々とした水田がどこまでも広がっている。列車は今庄、湯尾、今庄と,かつての宿場町の気配を残す駅を軽快に駆け抜け,やがて越前そばの里,武生(たけふ)駅へと到着した。
武生から田原町へ:福井鉄道福武線,路面電車(トラム)が織りなす日常の風景
武生駅でJRを下車し,徒歩数分の距離にある福井鉄道の「越前武生駅」へと向かう。ここからは,趣をがらりと変えてローカル私鉄の旅である。
待っていたのは,かつて名古屋鉄道からやってきたという,どこか愛嬌のある形の低床車両であった。北陸本線の俊足とは対照的に,福井鉄道福武線は急行といえども,どこか のんびりとした足取りで進む。
列車は鯖江の街を抜け,のどかな田園地帯をトコトコと走る。快晴の空の下,車窓を流れるのは,地元の人々の生活の匂いだ。部活と思わしき高校生や,買い物袋を下げたお年寄りが乗り降りする。
やがて列車は,浅水(あそうず)を過ぎたあたりから,この路線のハイライトである「併用軌道(路面電車区間)」へと突入する。
■福井鉄道のユニークな特徴
普通の鉄道線を走ってきた大柄な電車が,福井市街地に入った途端,道路の真ん中をクルマと並んで走り出す。このギャップがたまらない。
赤信号で電車が止まる。窓の外を見上げれば,すぐそこに自家用車のドライバーの顔がある。路面から伝わるゴトゴトという振動が,旅情をいっそう引き立てる。終点の田原町(たわらまち)駅に着く頃には,午前10時を回っていた。えちぜん鉄道との接続駅でもあるこの場所は,どこか開けた明るい雰囲気に満ちていた。
田原町から福井駅へ:変わりゆく街の記憶と,新幹線の足音
田原町駅で,今度は「えちぜん鉄道三国芦原線」へと乗り換える。アテンダントによる丁寧な案内が評判のローカル線だ。ここから福井駅へと向かう。
わずかな乗車時間であったが,車窓から見える景色は変化に富んでいた。そして列車が福井駅に近づいた時,私の目に飛び込んできたのは,巨大なコンクリートの構造物だった。
それは,今後いつか開業を迎えるだろう「北陸新幹線」の準備高架である。
まだ線路は敷かれていないのだろうか。巨大な高架橋が,青空に向かってまっすぐに伸びている。歴史ある街並みの中に突如として現れた未来への架け橋。2014年現在,この福井駅周辺は大きな変革の真っ只中にあった。新幹線を迎え入れるための熱気と,どこかそわそわとした高揚感が,駅全体から満ち溢れているのが肌で感じられた。
金沢行き列車と,県境の光の中で
福井駅からは,再びJR北陸本線の普通列車に乗り込む。目指すは金沢。
午前も終わりに近づき,太陽の光はさらに強さを増していた。列車は福井平野を快調に北上していく。芦原温泉駅を過ぎると,車窓の風景は徐々に山がちになり,福井と石川の県境である牛ノ谷峠へと差し掛かる。
車輪が刻むジョイント音が,静かな山間に響き渡る。窓から差し込む夏の強い光が,座席のモケットを青く照らしていた。
高校生の私にとって,この旅は単なる移動ではない。変わりゆく時代,消えゆく景色,そして新しく生まれる未来を五感で受け止めるための儀式のようなものであった。県境のトンネルを抜ければ,そこはもう石川県だ。しかし,私の心には,先ほど見た福井駅のあの力強い高架橋の姿と,どこまでも青い夏の空が,深く刻み込まれていたのである。
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