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取材:2014年1月
湯気の向こうの異国,そして潮風香る近未来へ。冬の夜,神戸の二つの顔を巡る
冬の夜の闇は,街の輪郭をいっそう鮮やかに描き出す。
2014年1月。厳しい寒気が身を包む中,私は地下鉄の旧居留地・大丸前駅に降り立った。冬休みの旅を満充している高校生の私は,昼間の喧騒が嘘のように落ち着きを取り戻しつつある「元町商店街」へと一歩を踏み出した。頭上を覆うアーチ型のアーケードには,老舗の洋菓子店や書店の灯りが静かに灯り,どこかハイカラで上品な神戸の日常の薫りを漂わせている。しかし,その落ち着いた佇まいを一本南へ折れた瞬間,目の前の景色は一変し,強烈な色彩と熱気が私の視界へと飛び込んできた。
そこは,日本三大中華街の一つに数えられる「南京町(神戸中華街)」である。
南京町の歴史は,慶応3年(1868年)の神戸開港にまで遡る。当時,清国(中国)は日本と通商条約を結んでいなかったため,外国人居留地(現在の旧居留地)への居住が許されなかった。そのため,西隣のこの地に中国人たちが住み着き,露店や商店を開いたことが中華街の始まりである。東西約270メートル,南北約110メートルという,横浜に比べればこぢんまりとした十字路の空間であるが、その密度は極めて濃い。
夜の帳が降りた境内ならぬ街路は,赤や黄色の無数のランタンに照らされ,まるで妖艶な異国の夜市に迷い込んだかのような錯覚を抱かせる。時刻はまさに夕食時。冷え切った空気のなか,溢れんばかりの人々が肩を寄せ合い,楽しげな声を響かせながら暖を求めて行き交っていた。
賑わいのなかの特等席,小籠包が運ぶ幸福
街の中心に位置する「南京町広場」へ向かって歩を進める。店先からは威勢の良い掛け声が飛び交い,あちこちのせいろから白く巨大な湯気がモクモクと立ち上っては,冬の夜空へと溶けていく。香ばしい胡麻油や五香粉(ウーシャンフェン)の匂いが鼻腔をくすぐり,旅人の食欲を容赦なく刺激する。
私は,ひと際長い列を作っている店に並び、蒸したての「小籠包」を手に入れた。
■ 南京町 食べ歩きメモ(2014年1月現在)
南京町の名物である小籠包や豚まんは,3個から4個入りで300円〜400円程度と,高校生のお小遣いでも気軽に楽しめる価格帯が魅力である。多くの店が夜20時〜21時頃には閉店準備に入るため,賑わいを味わいながら食事をするなら19時前後の訪問がベストと言える。
広場のあずまや(西安門近くの休憩スポット)の側で,冷めないうちに箸をつける。
プラスチックの器から持ち上げた小籠包の薄い皮を少し破ると,中から黄金色の熱々のスープが溢れ出してきた。ハフハフと息を吹きかけながら口に運ぶ。濃厚な肉の旨味と生姜の爽やかな香りが,冷え切った身体の芯へとじんわりと染み渡っていく。周囲を見渡せば,家族連れやカップルが皆,同じように白い息を吐きながら笑顔で点心を頬張っている。この飾らない,しかし確かな活気と温もりが,古くからこの街を支えてきた華僑たちのたくましい生命力そのものであるかのように思えた。
潮風の誘い,近未来の光が待つウォーターフロントへ
お腹を満たした私は,賑やかなランタンの光に別れを告げ,さらに南へと歩いた。国道2号線を高架沿いに渡ると,それまでの喧騒が嘘のように遠ざかり,代わりにひんやりとした,しかしどこかロマンチックな潮の香りが鼻先をかすめた。
目の前に広がったのは,漆黒の海とまばゆい光の競演。「メリケンパーク」である。
メリケンパークは,かつてのメリケン波止場と中突堤の間を埋め立てて,昭和62年(1987年)に開園した神戸を代表する臨海公園だ。「メリケン」の名は,幕末に近くに設置された米国(アメリカ)領事館の前の波止場を,当時の人々が「アメリカン」と聞き取れずにそう呼んだことに由来する。
一歩足を踏み入れると,曇りなき夜空の下,神戸のシンボルたちがまるで宝石を散りばめたような輝きを放っていた。
和楽器の鼓を長く引き伸ばしたような美しい双曲面構造を持つ「神戸ポートタワー」は、鮮烈な赤色のLED(2014年当時,リニューアル後の美しい輝きを見せていた)で夜空を刺すようにそびえ立ち,その隣では波をモチーフにした「神戸海洋博物館」の白いスペースフレームが,まるで光のレースのように緑色にきらめいている。さらに奥を見やれば,半円形のオリエンタルホテルが,海へと漕ぎ出す豪華客船のように,青白い光を纏って静かに佇んでいた。
震災の記憶,そして未来への歩み
神戸港のさざ波の音が,心地よく耳に届く。私は公園の東側に位置する「神戸港震災メモリアルパーク」へと足を向けた。
ここには,平成7年(1995年)の阪神・淡路大震災によって被災したメリケン波止場の一部(約60メートル)が,当時のままの姿で保存されている。
斜めに傾いた街灯,崩落したコンクリートの岸壁,海中に沈みかけた地面。光り輝くウォーターフロントのすぐ傍らに,このような生々しい歴史の傷痕が静かに横たわっている。
誰もいない暗がりのなか,私はその崩れた地面をじっと見つめた。2014年の今,美しく復興を遂げたこの港町の輝きは,決して当たり前のものではない。悲劇を乗り越え,未来へと繋いできた人々の祈りと不屈の足跡が,この美しい夜景の土台となっているのだ。私の胸に,言葉にならない重みと,ある種の厳粛な感動が満ち満ちていく。
冷たい海風がリュックサックを揺らす。私はもう一度,赤く輝くポートタワーを見上げた。その光は,暗い海原を進む船を導く灯台のように,どこまでも力強く,そして優しかった。
カメラ取り出し,この美しい夜景の記憶を1枚の写真に収める。私は日常のレールへ戻るため,光の粒子が躍る岸壁に別れを告げ,三宮の駅へと向かって,静かに歩みを進めたのである。
神戸の夜を愉しむために
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