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取材:2014年1月
過去と未来が交錯する丘。薄曇りの空にそびえる,異形のモニュメント
冬の象牙色の空が,千里の丘陵を低く覆っていた。
2014年1月。張り詰めた寒気の中,私は大阪モノレール線の万博記念公園駅に降り立った。高架のホームからは,近代的なコンクリートの軌道が幾重にも交差し,未来都市の血管のように遠くへと伸びているのが見える。冬休み,通学カバンをリュックサックに持ち替えて旅を続ける高校生の私は,ある「巨像」と対峙するためにこの地を訪れた。改札を出てスロープを歩むにつれ,冷たい風が頬をなで,遠くに白く巨大なシルエットが次第にその姿を現し始めた。
万博記念公園は,昭和45年(1970年)に開催された「日本万国博覧会(大阪万博)」の跡地を整備した,総面積約260ヘクタールに及ぶ広大な文化公園である。
大阪万博は「人類の進歩と調和」をテーマに掲げ,世界77カ国が参加,約6421万人という当時の史上最多動員記録を打ち立てた伝説の国家プロジェクトであった。高度経済成長期の日本が誇る技術力と熱狂がこの千里丘陵に集結し,動く歩道や携帯電話の原型など,当時の人々にとっての「未来」が実験場のように咲き誇っていたのである。それから40余年が流れた2014年の今,かつてのパビリオン群は姿を消し,静かな森と芝生が広がる緑豊かな公園へと生まれ変わっていた。
中央口のゲートをくぐり,広場へと進む。薄曇りの淡い光の中に,それは忽然と,圧倒的な質量を持って立っていた。岡本太郎が遺した世紀の傑作,「太陽の塔」である。
■ 万博記念公園 散策ミニ知識(2014年1月現在)
公園の入園料は大人250円(自然文化園・日本庭園共通)。水曜日が休園日(祝日の場合は翌日)となるため,冬期の平日に訪れる際は事前の確認が必須である。また,この当時の「太陽の塔」の内部は原則非公開となっており,外観をじっくりと鑑賞するのが旅の主目的となる。
三つの顔を持つ巨像,その眼差しと静寂
正面から見上げる太陽の塔は,高さ約70メートル,基底部の直径約20メートル。想像を遥かに超える巨大さで,高校生の私を無言で見下ろしていた。
芸術家・岡本太郎が「人類の進歩と調和」という大博覧会のテーマに対するアンチテーゼとして,原始的な生命のエネルギーをぶつけるように設計したこの塔は,三つの「顔」を持っている。頂部で金色に輝く「黄金の顔」は未来を象徴し,正面に据えられたコンクリートの「太陽の顔」は現在を表す。そして背面に回ると,黒いタイルで描かれた不気味な「黒い太陽」が、過去の記憶を刻むように佇んでいる。
薄曇りの空模様が,かえって塔の白いコンクリート肌を彫刻のように立体的に際立たせていた。
まばらな観光客の声も,広い芝生広場に吸い込まれていく。私は広場のベンチに腰掛け,じっとその異形を見つめた。お祭広場の大屋根を突き破ってそびえ立っていたという当時の写真を知る身としては,屋根が撤去され,広い空の下にぽつんと取り残された現在の姿に,どこか小説の終章のような,心地よい寂寥感を覚えずにはいられない。
塔の表面をよく見ると,赤や緑のガラスモザイクの線が,血管のように,あるいは稲妻のように走っている。それはまるで,1970年の熱狂の残り香が,今もなおこの塔の内部で脈打っている証拠のようであった。人類が進歩の階段を駆け上がる影で,太郎は私たちが忘れてはならない根源的な「生命の叫び」を,この千里の丘に打ち立てたのだ。高校生の拙い感性であっても,その静かなる咆哮は,胸の奥底へと確かに響いてきた。
軌道は巡り,日常のレールの先へ
気がつけば,手袋を通しても指先が悴むほどに身体が冷え切っていた。
私は再び太陽の塔の背面にまわり,過去を見つめる「黒い太陽」に一礼をしてから,万博記念公園のゲートを後にした。
大阪モノレールの万博記念公園駅へと戻る。
ホームへと入線してきた4両編成のアルミ車両に乗り込むと,車内の暖房が冷え切った身体をじわじわと解きほぐしていくのを感じた。座席に深く腰を掛け,窓の外を眺める。
列車がゆっくりと走り出すと,車窓の向こうで太陽の塔が,千里の木々の合間から小さくなっていく。
1970年という,自分が生まれる遥か昔の熱狂の時代。その夢の跡地で,私は確かに,時代を超越した芸術の生命力に触れた。リュックサックのポケットに仕舞い込んだ入園券の半券をそっと指先で確かめながら,ガタゴトと規則正しく揺れるモノレールの音に身を委ね,私は次なる目的地の宝塚,そして自分の生きる現代という日常へのレールへと,再び戻っていくのである。
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