【京都】冬の光が照らす南禅寺・水路閣と蹴上インクライン。高校生が歩いた近代化の遺産

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取材:2014年1月

巨刹の門から明治の鉄路へ。東山に息づく,祈りと近代化の記憶

冬の京都の空は,時に抜けるような紺碧を見せる。

2014年1月。雲一つない快晴の朝,私は京都市営地下鉄東西線の蹴上駅に降り立った。凛と張り詰めた空気の中,吸い込む息の白さとは対照的に,見上げる空はどこまでも青く,高い。通学カバンをリュックサックに持ち替え,冬休みの旅を満喫している高校生の私は,五感を研ぎ澄ますようにして東山の麓へと歩みを進めた。最初の目的地は,禅宗の最高位に君臨する大寺院,南禅寺である。

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境内へ一歩足を踏み入れると,まず目に飛び込んでくるのが、周囲の木々を圧するようにそびえ立つ巨大な「三門(天下一門)」である。

南禅寺は,正応4年(1291年)に亀山法皇の離宮を禅寺としたことに始まる,臨済宗南禅寺派の総本山だ。現在の三門は,寛永5年(1628年)に藤堂高虎が大坂の陣で戦死した家臣の冥福を祈って再建したものと伝わる。歌舞伎『楼門五三桐』の中で,大泥棒・石川五右衛門が「絶景かな、絶景かな」と見得を切る舞台としても名高い。拝観料(2014年現在、一般500円)を支払い,急勾配の木製階段を一段ずつ,きしみ音を響かせながら上っていく。

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五右衛門の台詞は,決して誇張ではなかった。楼上(五鳳楼)に立つと,視界が一気に開ける。快晴の冬日を浴びて,古都の街並みとそれを取り囲む山々が,まるで精巧なミニチュアのように眼下に広がっていた。冷たい風が容赦なく頬を打つが,その寒ささえも心地よいほどに,世界は光で満ちあふれている。かつての武士や文人たちも,この高みから同じように京の都を見下ろし時代の行く末を数えていたのだろうか。私は手すりに手をかけ,しばらくその圧倒的な青と緑のコントラストを胸に焼き付けた。

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■ 南禅寺 参拝メモ(2014年現在)
三門の楼上参拝時間は午前8時45分から午後4時30分まで(冬季)。早朝の清々しい光の中で絶景を独り占めしたいのであれば,開門直後の時間帯を狙うのが鉄則である。

禅寺に溶け込む、赤煉瓦の「水の道」

三門を下り,法堂の奥へと進むと,にわかに周囲の空気の質が変わる。厳かな和風建築の奥に忽然と現れるのは,古びた赤煉瓦のアーチ。琵琶湖疏水の水路橋,「水路閣」である。

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明治23年(1890年),京都の近代化をかけた一大プロジェクトとして建設されたこの水路閣は,南禅寺の聖域を通過するため、景観への配慮から古代ローマの水路橋を模してデザインされた。設計を手がけたのは,若き工学士・田辺朔郎。当時は「古都の景観を破壊する」と大猛反対が巻き起こったというが,120年以上の歳月を経た2014年の今,その煉瓦は程よく苔むし,東山の自然や禅寺の枯淡な佇まいと奇跡的な調和を見せている。

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水路閣の下に立ち,見上げてみる。連続する美しい半円のアーチが,陽光と木漏れ日の陰影によって、まるで巨大な万華鏡のような視覚的リズムを生み出していた。アーチの向こう側を覗き込むと,切り取られた景色がまるで一枚の絵画のようである。

水路の真下は,ひんやりとした静寂が満ちていた。しかし,頭上からは今もなお,琵琶湖から京の街へと送られる豊かな水が,静かに,しかし力強く流れている。その水の鼓動を感じていると,明治という時代の「未来を創造せんとする熱量」が、高校生の私の頼りない背中をそっと押してくれるような錯覚さえ覚えるのだった。

役目を終えた鉄路、光溢れるインクラインへ

水路閣に別れを告げ,私は再び蹴上方面へと歩き,旅の締めくくりとして「蹴上インクライン(傾斜鉄道)」へと向かった。

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インクラインとは,琵琶湖疏水の落差が大きな区間で,水運の舟を台車に載せて運ぶために敷設された傾斜鉄道のことである。全長582メートル。世界最長の傾斜鉄道として明治から昭和初期にかけて大活躍したが,鉄道網の発達により昭和23年(1948年)にその役目を終えた。現在は線路跡が国の史跡として保存され,自由に歩くことができる。

春には桜のトンネルとして観光客で埋め尽くされるこの場所も,1月の冬の日は驚くほど静かだ。

快晴の太陽に照らされた2本のレールが,どこまでも真っ直ぐに,坂の下へと伸びている。錆びついた鉄の質感,枕木の木目,そして敷き詰められたバラスト(砕石)。その一つひとつが,かつてここを無数の舟と荷物が往来したという産業の記憶を,雄弁に語りかけてくる。

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私は誰もいない線路の上を,バランスを取りながら一歩一歩,ゆっくりと下っていった。カサ,カサ,と靴底が石を踏む音だけが,遮るもののない青空に溶けていく。
小説の中で時間が止まってしまったかのような,不思議な充足感がそこにはあった。高校生の不器用な歩みでも,この歴史ある鉄路の上では、確かな足跡として刻まれているように思えた。

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坂を下りきり,振り返る。斜面を上っていく鉄路の向こうに,冬の透き通った青空がどこまでも広がっていた。近代京都の礎を築いた人々の知恵と情熱,そしてそれを静かに見守り続ける禅の心。その両方に触れた私は,心地よい疲労感に包まれながら,次の街へと向かうために駅の階段を下りたのである。

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