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取材:2013年7月
フェリーで秋田に到着,その続きのお話。

緑の列車が運ぶ,夏の予感
次に目指すのは,鉄道ファンの間で「一度は乗るべき路線」として必ず名が挙がる五能線。そして私を待っていたのは、橅(ぶな)の木々を思わせる鮮やかな緑色をまとった「リゾートしらかみ1号」である。
2013年現在,この「橅編成」はリゾートしらかみの運行開始当初からの歴史を背負う,どこかノスタルジックな気品を漂わせた車両だ。キハ48形気動車を改造したその車体に一歩足を踏み入れると,大きな窓から差し込む夏の光が,旅の始まりを雄弁に告げていた。午前8時20分,列車は静かに秋田駅を滑り出した。
能代駅の挑戦:ホームに響く歓声とバスケの街
列車は奥羽本線を北上し,東能代駅からいよいよ五能線へと入る。最初のハイライトは,すぐに訪れた。バスケの街として全国にその名を知られる能代市の中心駅,能代駅である。
ここでは「リゾートしらかみ1号」の乗客のために,10分間の停車時間が設けられている。ホームに降り立つと,そこには本物のバスケットゴールが設置されていた。
「シュートが決まれば,記念品を差し上げます!」
駅員の威勢のいい声に誘われ,私も列に並んだ。高校生の意地を見せたいところだったが,手渡されたボールの感触は思ったよりも重い。放たれた弧は惜しくもリングに嫌われ,ホームに乾いた音が響いた。それでも,見ず知らずの乗客同士が歓声を上げ,悔しさを共有するその一瞬は,旅の緊張を心地よく解きほぐしてくれるものであった。
深浦駅の邂逅:青と緑、二つの「しらかみ」が交わる場所
能代を出た列車は,いよいよ日本海の波打ち際へと迫っていく。車窓いっぱいに広がるのは,吸い込まれそうなほどな海だ。
岩肌に打ち付ける白波と,どこまでも続く水平線。時折,列車は景色が美しいポイントで徐行運転を行ってくれる。心憎い演出に,乗客は一斉にカメラを向け,あるいはただ黙ってその景色に見惚れていた。
お昼前,列車は運行上の要所である深浦駅に滑り込む。ここで、青森方面からやってくる「リゾートしらかみ2号」との行き違いが行われるのだ。
向こうからやってきたのは,2010年に登場したばかりの最新鋭ハイブリッド車両「青池(あおいけ)編成」である。白神山地の神秘的な沼をイメージした鮮烈な青い車体が,私たちの乗る緑の「橅編成」とホームを挟んで並ぶ。新旧の,そして青と緑の対比。それはまるで,五能線という巨大なキャンバスに描かれた一幅の絵画のようであり,五能線の旅の中で最も贅沢な瞬間の一つであった。
鰺ヶ沢〜五所川原:車内に響き渡る、津軽の魂
深浦を過ぎると,海岸線の景色から徐々に広大な津軽平野の風景へと移り変わっていく。しかし,旅の興奮が冷めることはない。鰺ヶ沢駅を過ぎた頃,車内アナウンスが流れ,前方の展望スペースに人が集まり始めた。
始まったのは,津軽三味線の生演奏である。
鰺ヶ沢駅から五所川原駅までの間,演者が奏でる重厚な弦の音が車内に響き渡る。バチが皮を叩く激しい音が,列車の心地よいジョイント音と不思議に調和していく。窓の外に広がる津軽の田園風景、遠くに見える岩木山の稜線、そして車内を満たす伝統の旋律。耳と目の両方から押し寄せる津軽の情調に,私は言葉を失い,ただただ圧倒されていた。高校生の私にとって,それは教科書の中の伝統文化ではなく,今この土地で生きている「生きた芸術」との衝撃的な出会いであった。
エピローグ:終着・青森駅。五能線が残したもの
五所川原、川部を経て,列車は再び奥羽本線へと戻り,午後1時29分,終着の青森駅へと到着した。約5時間に及ぶ旅は,数字の上では長旅に見えるかもしれない。しかし,私の心の中では,まるで良質な短編小説を読み終えたかのような,あっという間のひとときであった。
2013年夏の思い出として僕の心に刻まれたのは,ただの移動手段としての鉄道ではない。地域の人々の温もりに触れた能代,自然の美しさを競い合った深浦,そして土地の魂に震えた津軽三味線。それらすべてを乗せて走る「リゾートしらかみ1号」は、乗ること自体が最高の目的地となる魔法の列車であった。
旅を終えた青森駅のホームで,私は旅の疲れを癒やすかのようにホームにたたずむ緑の車体を眺めた。心地よい疲労感とともに,私の旅のノートには,忘れられない夏の1ページが確かに書き加えられたのである。
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