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取材:2013年7月
2015年春の足音と、消えゆく「日常」
2013年 7月。夏の瑞々しい青葉が,どこか湿気を含んだ風に揺れている。
いま,鉄道ファンの熱い視線が注がれている場所がある。2015年春に開業を控えた北陸新幹線(長野〜金沢間)の沿線だ。
新しい時代の幕開けは,同時に,古き良き景色の終焉を意味する。新幹線がもたらす「速さ」と引き換えに,私たちは何を失ってしまうのだろう。そんな感傷に背中を押され,私は列車に乗り込んだ。
目指すは,信越本線の小さな木造駅舎――「脇野田(わきのだ)駅」。
新幹線「上越妙高駅」の建設に伴い,ルートごと移設され,その姿を消すことが決まっている駅だ。直江津から普通列車に揺られ,最後は今や貴重となった国鉄型特急車両で走る「快速くびき野」で新潟へ。
変わりゆく新潟の鉄路の「今」を焼き付ける,短い旅の記録をお届けする。
直江津駅から始まる旅。交差する過去と未来
旅の始まりは,かつて日本海側の交通の要衝として栄えた直江津(なおえつ)駅。
信越本線と北陸本線が交わるこの巨大なターミナル駅も,新幹線が開業すれば,並行在来線としてJRから第三セクター(えちごトキめき鉄道)へと移管される予定だ。
【今回の旅のルート】
直江津駅(普通列車) ➔ 脇野田駅 ➔ (快速くびき野) ➔ 新潟駅
ホームで発車を待つ普通列車に乗り込む。モーターの鈍い唸り声とともに列車が動き出すと,車窓にはどこまでも続く越後平野の緑が広がった。夏の強い陽射しが,線路のバラストをギラギラと照らしている。わずか十数分の乗車。しかし,その車窓の向こうには、刻一刻と迫る「未来」の巨大な影が見え隠れしていた。
巨大な高架のそばで息をひそめる、木造の「脇野田駅」
脇野田駅に降り立つ。
ホームに降りた瞬間,私はその圧倒的な「違和感」に息を呑んだ。
目の前には,白く輝くコンクリート製の巨大な建造物。建設中の北陸新幹線「上越妙高駅」の高架橋だ。その圧倒的な近代建築の脇に,古びた在来線の脇野田駅は位置している。
脇野田駅の歴史と現在(2013年7月時点)
大正大正7(1918)年,脇野田信号場として開設され,大正10(1921)年に駅へと昇格。現在の駅舎は,どこか懐かしい昭和の面影を濃く残す木造平屋建てだ。しかし,新幹線開業に伴い,脇野田駅は西側へ約120m移設され,新幹線駅と統合されることが決まっている。つまり,この地上ホームに列車が発着する景色は,今しか見られない。
駅舎の中に入ると,ひんやりとした空気が張り詰めていた。
使い込まれた木製のベンチ,静かなきっぷうりば,そして窓から差し込む優しい夏の日差し。自動改札機などない。駅員さんがパチンと切符に鋏(はさみ)を入れる音が聞こえてきそうな,完璧な「昭和」がそこにあった。
駅の周りを歩いてみる。田んぼの向こうにそびえ立つ新幹線の高架と,手前を走る信越本線の単線。この「過去と未来の対比」こそが,2013年現在の脇野田駅が放つ,儚くも美しい魅力だ。じきにこの線路は切り替えられ,この駅舎も役目を終える。
蝉の鳴き声だけが、妙高の山々に虚しく響いていた。
旅のクライマックス:国鉄の遺伝子「快速くびき野」で新潟へ
脇野田駅のノスタルジーに別れを告げ,次は,この旅のもう一つの主役であり,現在の新潟の鉄道を語る上で外せない名列車に乗車する。
入線してきたのは,白い車体に青と緑の帯をまとった485系(特急型車両)。これを使用した「快速くびき野」だ。
特急料金不要の「快速」でありながら,かつて全国の特急街道を特急「雷鳥」や「白鳥」としてその名を轟かせた名車485系に揺られることができる。まさに鉄道ファンにとっては夢のような列車である。
- 座席: ゆったりとしたリクライニングシート(一部指定席あり)
- 走り: 特急さながらの俊足で信越本線を快走
- 車内: 重厚なモーター音と,どこか懐かしい国鉄の香り
直江津を出発した「快速くびき野」は,日本海の海岸線に沿って一気に北上する。柿崎、柏崎と過ぎるにつれ,車窓の左手には真っ青な日本海が広がり,夕暮れが近づくにつれて海も静まりかえってくる。
MT54モーターの力強い爆音が客室に響き渡る。新幹線の「静かで速い」移動も素晴らしいが,この「鉄の塊が唸りを上げて疾走する」感覚こそが,旅情をそそる。新幹線が開業すれば,この485系による「くびき野」もおそらく今と同様の活躍の場はないだろう。この音も,この揺れも,すべてが今だけの限定品なのだ。
結び:変わる景色,変わらない旅の衝動
列車は定刻通り,終着の新潟駅に滑り込んだ。
人々が常に行き交う現代的な新潟駅のホームに降り立つと,ついさっきまで脇野田駅の木造駅舎にいたことが,まるで遠く狐につままれたかのような錯覚を覚える。
2015年春,北陸新幹線が開通すれば,東京と北陸・上越は劇的に近くなる。ビジネスも観光も,計り知れない恩恵を受けるだろう。
しかし,効率化の波に洗われ消えゆく「脇野田駅の木造駅舎」や「485系の爆音」のような,不器用で愛おしい景色があったことを,私は忘れたくない。
あなたも,カメラを片手に「今しか見られない鉄道の記憶」を探す旅に出かけてみませんか? 新幹線が開業する前の「今」だからこそ,出会える景色がそこにあります。
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