【日本一のモグラ駅 土合駅】静寂と異世界情緒をめぐる旅

取材:2013年7月

「本当に、この下に駅があるの?」

高校1年生の夏休み。とある友人に旅に出ようと勧められるがままに,群馬県の水上駅から下り列車に乗り込んだ私たちを待っていたのは,想像を絶する「日常の終わり」だった。

今回は北海道&東日本パスを利用,「日本一のモグラ駅」として名高いJR上越線・土合(どあい)駅の訪問記をお届けする。ネットの噂や写真だけでは決して伝わらない,あの地下深くの静寂と,這い上がる者だけが味わえる達成感。16歳の夏の記憶を,そのままここに書き残したい。

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旅の始まり:水上発,深い緑の奥へ

2013年7月。梅雨が明けたばかりにもかかわらず,どこか晴れない関東地方は、うだるような暑さに包まれていた。
高崎駅から115系電車に揺られて1時間,乗換駅である水上駅に到着する。ここから先,新潟方面へと向かう普通列車は,1日にわずか5往復(※定期列車)しか存在しない。まさに秘境の入り口だ。

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水上駅のホームに滑り込んできた3両編成の115系。モーターの重々しい唸り声を上げながら,列車は利根川の上流に沿って山を登っていく。車窓を流れる湯桧曽(ゆびそ)の山々は,目に染みるほどの濃い緑に覆われていた。

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「次は,土合。土合です」

車内アナウンスが響くと同時に,列車は「新清水トンネル」という巨大な闇の中へと吸い込まれていった。
ゴーーーッという轟音が狭い車内に反響し,窓の外は一瞬にして漆黒に染まる。

そして列車は速度を落とし,停車した。

降車:地下70メートル,静寂の底

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重いプシューという音とともにドアが開く。一歩足を踏み出した瞬間,私は思わず身震いをした。

「……涼しい、いや、寒い?」

地上は30度を超える真夏だというのに,ホームを満たしているのは年中15度前後に保たれているという,ひんやりとした湿った空気。そして,コンクリートの壁から染み出す水の匂いだ。

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列車が去っていくと,線路の奥から響いていた轟音が徐々に遠ざかり,やがて完全な「無音」が訪れた。いや,無音ではない。コンクリートの隙間から「ポツン、ポツン」と滴る水滴の音だけが,やけに大きく耳に届くのだ。

蛍光灯の薄暗い光が,どこまでも続く近未来のシェルターのようなホームを照らしている。ここが,地上から約70メートル,ビルで言えば20階分近く沈んだ場所にある,土合駅の下り線ホームである。

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土合駅(下り線ホーム)の基本データ(2013年現在)

  • 位置: 新清水トンネル内
  • 地上までの階段数: 462段(さらに連絡通路に24段、計486段)
  • 設備: 無人駅、自動券売機なし(乗車駅証明書を発行)

試練:462段の「天へと続く階段」

ホームの端へ歩いていくと,ネットの画像で何度も見た「あの景色」が目の前に現れた。

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暗闇の向こうへ,信じられないほどの角度で一直線に伸びる階段。上を見上げても,ゴールである地上の光ははるか遠くに見える。トンネルの湿気で霧が薄くかかっており、まるで異世界へ続く巡礼の道のようだ。

「よし、登るか……」

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意を決して一歩目を踏み出す。
最初の100段は,まだ高校生の体力ゆえに余裕だった。しかし,200段を過ぎたあたりから、太ももに乳酸が溜まっていくのがわかる。湿度の高さも手伝って,額にわずかの汗がつたってきた。

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この長く続く階段には,エスカレーターもエレベーターもない。途中にいくつか設置されている木製のベンチだけが,旅人の唯一の救いだ。なんとかそこに腰掛けることはせず,せっかくなら一気に地上を目指そうと,たまに下を振り返ると,自分がどれだけ深い奈落から登ってきたのかを思い知らされ,少し足がすくんだ。

歴史を紐解けば,この新清水トンネルが完成し,土合駅の下りホームが地下に誕生したのは1967年(昭和42年)のこと。かつて谷川岳を目指す多くの登山客が,大きなザックを背負ってこの階段を登っていったのだろう。

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400段を超え,ついに外の光がはっきりと目の前にあることを実感した。

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最後の力を振り絞って462段目を踏みしめる。

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「出た……!」

地上:昭和の面影を残す山小屋風の駅舎

階段を登りきっても,まだ終わりではない。長さ143メートルの連絡通路(ここにも24段の階段がある)を渡り,ようやく改札口へとたどり着く。

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最後の24段(連絡通路の階段)を登りきり,ついに改札口を抜けると,そこには山の緑と,長らく目にしていなかった太陽の光が待っていた。

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改札を出ると,そこは山小屋風の頑丈な駅舎だった。

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かつて登山客の案内で賑わったであろう窓口は,今は板で閉ざされ,静かに時を止めている。この駅は完全に無人化されているが,駅前の広場に出ると,これからさらに高い山に臨むハイカーの人々が小休止をしており,静かな山あいに賑やかなひとときが流れていた。

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さっきまでの地下の冷気が嘘のように,山の熱気が身体を包む。振り返れば,標高が高いのか雲がすぐそこまで迫っていた。

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地下の閉塞感から解放された瞬間は,自分の足で階段を登りきった者にしか味わえない特権だ。

帰路:地上にある上り線ホームから,再び水上へ

しばらく駅周辺の自然を満喫したあと,私は再び駅舎へと戻った。今度は、水上行きの列車に乗って帰路につく番だ。

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土合駅の面白いところは,先ほど下車した下り線が地下深くにあるのに対し,上り線(高崎・上野方面)は地上にあるという点だ。もともと1931年(昭和6年)に単線で開通した際のホームがそのまま使われているため,上り線に関しては階段を1段も登ることなく,駅舎からフラットにアクセスできる。まさに「天国と地獄」ほどの差がある。

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上りホームに足を踏み入れ,風に揺れる周囲の草木を眺めながら列車の到着を待つ。
やがて,遠くから踏切の音が聞こえ,白い車体に緑の帯をまとった115系が,今度は地上の光を浴びながら滑り込んできた。

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列車に乗り込み,冷房の効いた車内から遠ざかっていく土合駅の三角屋根を眺める。
わずか1時間程度の滞在だったが,まるで数日間の大冒険をしてきたかのような,不思議な充実感が胸を満たしていた。

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おわりに:あなたも「日常の裏側」を覗きに行きませんか?

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高校1年生の夏,私が体験した土合駅への旅。それは単なる鉄道の移動ではなく,五感すべてを使って「空間のギャップ」を楽しむ,極上のエンターテインメントだった。

もしあなたが,「普通の旅行には飽きた」「日常を忘れるような刺激が欲しい」と思っているなら,ぜひ上越線の列車に乗って,土合駅のホームに降り立ってみてほしい。

スマホの画面越しでは絶対に味わえない,あの「ひんやりとした空気」と「どこまでも続く階段」が,あなたを待っている。

土合駅へ旅するあなたへ(2013年夏・訪問時の注意点)

土合駅への旅を最高のものにするために、いくつかのアドバイスを。

  • 列車の本数に注意: 水上〜越後湯沢間は普通列車が非常に少ないため,必ず事前に時刻表を確認し,旅のプランを立ててから向かいましょう。
  • 服装と装備: 地下ホームは夏でも肌寒いため,薄手の羽織るものがあると安心です。また,462段の階段を登るため,歩きやすいスニーカーは必須です。
  • 飲料水の確保: 駅周辺や地下ホームには自販機がありません(※2013年当時)。水上駅などであらかじめ飲み物を購入しておきましょう。

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