本ページはプロモーションが含まれています
取材:2014年1月
坂道の果てに,異国の記憶が佇む。黄昏時の神戸北野で二つの名邸と出会う旅
西の空が,ゆっくりと琥珀色から深い葡萄色へと移り変わっていく。
どこか哀愁を帯びた夕刻の空気のなか,私は神戸市営地下鉄の新神戸駅に降り立った。冬休みの旅を続ける高校生の私は,港町・神戸の繁栄を山の手から見守り続けてきた象徴的な丘を目指していた。目指すは「北野異人館街」。新神戸駅から西へ,六甲山の山麓を縫うように走る「北野通り」を進む。上り坂を進むにつれ,喧騒は遠のき,古い石垣やガス灯を模した街灯が,旅人を明治の記憶へと誘うように連なっていた。
北野異人館街は,慶応3年(1868年)の兵庫(神戸)開港に伴い,日本を訪れた外国人たちの居留地として発展した地である。
当時,旧居留地(現在の元町・三宮駅南方)の土地が不足したため,眺望が良く風通しの優れた北野一帯が「雑居地」に指定され,多くの洋館が建設された。かつては200棟以上を数えた異人館も,戦災や時流のなかで数を減らし,2014年現在では数十棟が国の重要文化財や伝統的建造物として保存・公開されている。夕暮れの淡い斜光に照らされた異人館街は,小説の舞台のような静けさと,異国情緒の薫りを色濃く漂わせていた。
レンガの赤に宿る,宿命の風見鶏
坂を上りきり,北野町広場に面した高台に立つと,一際力強い存在感を放つ建物が眼前に現れた。重要文化財「風見鶏の館(旧トーマス住宅)」である。
明治42年(1909年)頃,ドイツ人貿易商のゴットフリート・トーマス氏の邸宅として建てられたこの館は,北野の異人館の中で唯一,鮮やかな赤煉瓦の外壁を持つことで知られる。尖塔の先で夕空を背景にくるくると回る「風見鶏」は,単なる風向計ではなく,キリスト教において魔除けや警戒の象徴としての意味を持っていた。
入館料(2014年現在、大人500円)を支払い,重厚な木製の扉を開ける。
一歩足を踏み入れると,そこにはアール・ヌーヴォーの様式を取り入れた,重厚かつ華麗な空間が広がっていた。夕方の斜光が室内の深い色調の木製家具や,格天井に美しい影を落としている。居間の大きな暖炉や,中世ドイツの城郭を思わせる重厚な書斎を見つめていると,かつてこの館で異国の海を想いながら暮らした家族の息遣いが,時を超えて高校生の私の胸にじんわりと伝わって気をもむ。窓の外を見やれば,傾きかけた太陽が神戸港の水面を黄金色に染め上げていた。
■ 異人館めぐり 旅行メモ(2014年1月現在)
「風見鶏の館」と,隣接する「萌黄の館」は,2館券(600円)を利用することで別々に購入するよりもお得に見学が可能である。冬期の閉館時間は午後5時(入館は4時45分まで)となるため,夕刻に訪れる際は滞在時間に余裕を持ったスケジュールが望ましい。
萌黄色の木漏れ日,開放的なベランダの記憶
風見鶏の館を後にし,すぐ隣に佇むもう一つの名建築「萌黄(もえぎ)の館(旧シャープ住宅)」へと足を向けた。
明治36年(1903年),アメリカ総領事のハンター・シャープ氏の邸宅として建築されたこの洋館は,その名の通り,淡いグリーンの木製下見板張りの外壁が最大の特徴である。昭和の修理の際に,元の色であるこの美しい「萌黄色」に復元されたという。
館内へ入ると,風見鶏の館の重厚さとは対照的に,こちらは開放的でどこか軽やかな,アメリカン・ヴィクトリア調の意匠が随所に散りばめられていた。
日没が近づき,夕日が建物の西側に回る。2階の開放的なベランダに上ると,ガラス窓越しに,夜をまもなく迎える神戸の街並みが一望できた。阪神・淡路大震災の際に地上へ落下し,現在も庭にそのままの姿で保存されている「レンガの煙突」をベランダから見下ろす。そこには,華やかな異国情緒だけではない,この街が乗り越えてきた激動の歴史の傷痕が静かに刻まれており,私は言葉を失い,ただじっとその場所を見つめるしかなかった。
日没の北野坂を下り,三宮の光の中へ
萌黄の館を出る頃には,太陽の輪郭は西の山並みの向こうへと沈み,街はすっかり夜の形相となっていた。
私は北野異人館街の中心から南へと真っ直ぐに伸びる「北野坂」を下り始めた。
かつては異人館街と旧居留地を結ぶ重要な生活道路であり,現在は洗練されたカフェやブティック,ジャズバーなどが軒を連ねる神戸屈指のお洒落なストリートである。坂道を一歩下るごとに,ガス灯風の街路灯がぽつり,ぽつりと暖かな光を灯し始め、背後の異人館たちが深い闇の中へと溶けていく。
振り返ると,坂の上の異人館街は,まるで時間を止めてしまったかのような静謐さを保っていた。しかし,眼前に広がる三宮駅周辺の市街地には,現代のネオンや車のヘッドライトが無数の光の粒子となってきらめいている。
神戸北野異人館巡りを愉しみたいあなたへ
神戸・三宮・北野エリアの宿泊予約はこちら
北野異人館街の周辺には,レトロでクラシックなホテルや,神戸港の夜景を一望できる贅沢な宿が数多くあります。新神戸駅や三宮駅からのアクセスも抜群なため,異人館のライトアップや,神戸の美味しいディナーをゆっくり満喫するための拠点として事前予約がおすすめです。
神戸の歴史と異人館の建築美を深く知る一冊
なぜ神戸の山の手にはこれほど多くの洋館が建てられたのか。明治の開港から震災の復興まで,建築の意匠とともに紐解くガイドブックが手元にあると,北野の坂道歩きが何倍も豊かでディープな時間になります。移動中に読める電子書籍が便利です。
るるぶ神戸’26超ちいサイズ (るるぶ情報版 小型) [ JTBパブリッシング 旅行ガイドブック 編集部 ] 価格:1375円 |
夕暮れのマジックアワーと洋館の色彩を切り取るカメラ
風見鶏の館の鮮やかな赤煉瓦,萌黄の館の繊細な色彩,そして北野坂から見下ろす夕暮れの神戸の街並みを,スマホ以上に美しく階調豊かに残すならミラーレス一眼が最適です。街歩きにぴったりな軽量・高画質モデルをセレクト。







コメント